第三十六話:特訓
「おじゃましまーす!」
そう言うと私は、『菊池』と看板のついた家へ上がり込んだ。
門をくぐり少し庭を抜けた先にある玄関を辿り着くと、インターホンを鳴らし「こんにちは!七海です!」と名乗る。
「どうぞー」
暫くすると暮葉ちゃんに声をかけられ、それと同時に扉が開いた。
「いつ来ても広いねー!暮葉ちゃんの家」
「でも、広すぎて困ることもあるんだよ?」
確かに掃除や物探しなんかはかなり辛そうだと思う。
家に入る前にでかでかと門が置いてあったり、玄関までに少し歩かなければならなかったりしたことからわかるのだが、暮葉ちゃんの家はかなりのお金持ちだった。
和風な雰囲気を意識された家の構造は、いつもマンションの一室に住んでいる私からするととても新鮮なものだった。
暮葉ちゃんに付いて行き辿り着いた場所は暮葉ちゃんの部屋だった。
さっきまで吹き抜けの廊下を通りそこからは畳の部屋がいくつも見えたというのに、暮葉ちゃんの部屋はそれに比べるととても異質と呼べるものだった。
全くと言っていいほどに和風要素は取り除かれ、フローリングの床にテレビやベッドなどが置いてあった。
普通の家ならば何もおかしいところは無いのだが、今までと風景が違いすぎて違和感しか感じない。
「今日は何する?」
そう言うと、きれいに並べられたゲームの入った籠を引き出しから取り出す。
「格闘ゲームとレースゲーム以外で!」
さっちゃんとの勝負のことを考えそう答えた。
「じゃあこれかな…」
暮葉ちゃんがそう言って手に取ったものはパズルゲームだった。
「パズルゲームはコツさえ覚えればすぐにできるようになるよ」
「パズルゲームか…」
この前暮葉ちゃんの家に来た時に、一番できなかったのがパズルゲームだった。
似ている形をすぐに判別するのが苦手らしく、暮葉ちゃんのように見る前に判断し狙ったところに落としていくことができなかった。
「さっきも言ったけどコツを覚えればできるようになるから!」
少し自信がなさそうに見えたのか、暮葉ちゃんがそう言葉をかけてくれる。
「頑張ってみる!」
この特訓というか訓練は夕方の6時程まで続いた。
もう数日はゲームをやりたくなくなった。