第一話:暖かき月
一話目だけ少し長めです。ご了承ください。
夢を見ていた。
曖昧な記憶しかないのだが、だからこそそれが夢だと理解できているような気がする。
その夢の内容とは、周りは木に囲まれていて、近くに綺麗な川が流れており、蛍がそこら中に飛んでいる森のような場所で、ぼやけて消えそうな可愛らしい女の子が楽しそうに笑っている。
空にはとても大きく、とても青く、とても儚く、月が輝いていた。そんな夢だった。
* * *
「う~ん、頭いてぇ…」
朝、目が覚めるとそこには窓から差し込む朝日と8時を指している時計…って!遅刻確定演出ですねありがとうございます!
そんなこと考えてる場合じゃねぇ!早く準備して急いで家を出たらまだホームルームにギリ間にあう!
寝ぐせはそのままで、朝ご飯を作って食べてる暇なんてものはなく、制服を着ただけで家を出る。
登校中に友達に会うわけもなく、教室に入った瞬間チャイムが鳴った。
マジでギリギリだった。
友達と軽い挨拶をし席に着く。
幸いまだ担任の先生は来ていなかったので、あたかも余裕をもって学校来ましたよ的な顔をして担任を待つ。するとすぐに担任が教室に入ってきた。
担任はおっさん、それ以上でもそれ以下でもない。そして、今日の授業の予定を話して、ホームルームは終了した。
そんなことを思っていると、
「おはよ~」
と声をかけられた。
彼女は俺の幼馴染で名前を菜月七海という。
ちなみに紹介していなかったから言うが、俺の名前は桐生旭。
七海からは旭の「さ」から取って、さっちゃんって呼ばれている。
何で「さ」から取ったのかは知らん。
「いきなり大きい声出すなよ、頭に響く」
「朝一からひどい!?全然学校来ないから体調でも悪いかと思って心配しちゃったよ!」
「すまんが、学校より睡眠のほうが好きな質なんだ。だからギリギリまで寝てた」
ただ目覚まし設定するの忘れてただけなんだけど…睡眠は大好きなので嘘は言ってない。
「学校には来ないといけないんだから余裕を持って行動しないとだめだよ!」
「はいはい、気を付けます」
「なんか返事がテキトーだけど…時間無いからまた来るね!」
そう言い残して七海は去っていった。同じクラスではあるが席はあまり近くない。
この前席替えをしたのだが、男女混合でクジを引くという席替えの方法だったので見事に男女の席が偏る結果になってしまったのだ。
なに考えてんだかあのおっさん。
* * *
何事もなく予定通りに授業が始まった。
1時間目は国語で担任の授業だった。
ちなみに授業はちゃんと聞いていたが、面白いか面白くないかで言ったら、別に面白くなかった。
まぁ授業なんてそんなもんだろう。
そんなこんなで昼休みが始まりクラスのみんなが弁当を食べる準備をし始めた時、
「やっと授業終わったー!」
「いや別に終わってはないだろ。午後にも授業あるし」
「確かにそーだけど…って違う!一緒にご飯食べようって話をしに来たの!」
「断っても近くに来るじゃん」
「えーそうだっけ?」
授業が終わった瞬間、七海が走ってこっちに来た。
そして話をしながらストンと俺の隣の席に座る。
ちなみに隣の席のやつは昼になったら席が取られることが確定しているので、昼になった時点で仲のいい友達のところに移動しているらしい。
別に俺は悪くないはずなんだが、なんか申し訳なくなってくる。
「てか、なんで授業の間の休憩時間に話しかけに来なかったの?」
「えっ!なになに?来てほしかったの?」
「そーゆーわけじゃねぇよ!」
「ふーん、正直になればいいのに」
「別に嘘はついてねぇわ!」
なぜか弱みを握られたみたいになってる…
また来るって言ってたからすぐ来ると思ったのに昼まで来なかったから驚いただけであって、別に早く来てほしかったわけじゃないんだからね!
えっ…?男のツンデレはいらないって?ソーデスカスイマセンデシタ
「あっそうだ!なんで朝遅れたのか理由聞いてない!」
「あーそれか、なんか変な夢でも見たのか知らないけど頭が痛くてな」
「えっ!今は大丈夫なの?」
「あぁ、全然大丈夫だ、てかそんなに辛かったら早退とかしてる」
「確かに今は元気そうだね!」
「だからそんなに気にしないでくれ」
「わかった!」
そんな感じで今日も今日とて雑談を交わしている。
特に会話が途切れることはなく弁当を食べ終わっても、授業が始まる5分前くらいまでワイワイ話をした。
* * *
午後からも授業があったのだが、うん…くそねみぃ…
なんかわかんないけど数学の先生の話し方めっちゃ眠くなるんだよね。
とは言ったものの授業はちゃんと聞きたいと思う超優良生徒なので、ギリギリ起きている状態を保つ。
特に授業でも帰りのホームルームでも面白いことはなかった。
語るまでもないというやつだ。
なんというか普通の1日だった。まぁ高校生らしい1日だったと満足はしている。
* * *
帰り道にて…
「ねぇ!今度家に行っていい?」
「別にいいけど…なんかあったか?」
「いや、特に何も無いけど…暇だからかな?」
「予定が空いてる日があったら連絡しろよ、多分俺も空いてるから」
「あい~」
「どんな返事だよ!」
七海とは家が近く、それが理由で親同士が仲良くなって幼馴染として仲良くしてるんだが…
流石に高校生にもなって女性としてみるなというのは無理ってものだ。
しかし、別に恋愛をしようとは思わないし幼馴染として仲良くしたいと思っているのでこのままでもいいとは思っている。
七海とはかなり長い間ずっと一緒にいるはずなのに、全然話題がなくならないから不思議なもんだ。
何もすることがない時、つまり登下校中に話し相手がいるとすぐに家に着く感覚に陥る。
最近はスマホをいじりながら歩く人が増えていて、一人でも退屈はしないのかもしれないが、個人的には危ないという考えが真っ先に浮かび、信号に引っかかった時くらいしかスマホをいじらないだろう。
まぁ話し相手がいるからそんなこともないと思うが…
「なんで俺とおんなじ学校にしたんだ?お前だったらもう少しいい学校あっただろ。」
「えー、家から近かったから以外に理由っている?」
「いるだろ」
「そうなんだー、でもさっちゃんももう少しいい学校あったんじゃないの?」
「確かにあったけど、ここより遠いところだと朝寝る時間が減るからヤダ」
「ほらー!同じような理由で学校選んでるじゃん!」
「遠すぎると不便だからな」
そんな風に駄弁っていると家 が見えてきた。
「じゃあこの辺で」
「うん!また明日!」
めっちゃ大きい声で返事をされ、それから各々家に帰る
「疲れたな…」
家に入りそうつぶやいた後、布団にダイブする。
この前高校に入学して少し経っただけだというのに、教室は新たな生活に慣れてきてそれらしい空気が流れ始めている。
話せる友達も七海以外にできて、それなりに楽しい生活を送れていると思っている。
また明日も学校があるので体を洗って、夕食を食べて、今日はゆっくり体を休めるとしよう。