肉を食う家族
すこしまえに家長が見せびらかしたあの立派な牛肉は、そろそろ焼かれるに違いなかった。何度も台所を覗きに行く兄のそわそわ加減がいよいよ地震みたいに家を揺らした。家が壊れるとママが叱ったが効果は見られない。この家にはあと妹と婆がいる。
ところで、あのとき見た肉の盛りだくさん加減から、わたくしも十分味わえると考えて相違ない。一番食うのが兄で、いつも子供たちに多めにくれてやる家長も今回ばかりは食べたいに違いない。ウキウキのにじみ出るぐあいは兄に変わらないからだ。ママと妹と、野菜を好むとはいえ食うときは食うから侮れない。歯のない婆は噛めないとかで食わない。
それらから察するに、わたくしの分はお皿の三分の一か。緑のカリカリがどれくらい幅を利かせるか不明であるが、今日ばかりはほどほどにしてもらいたい。
とそこで、ママが家長を呼んだ。茶碗に白米をもった家長が戻ってきて、まもなくママがホットプレートを抱えてくる。家族が食卓を囲んで、素晴らしい匂いが煙と一緒に流れてくる。
ママがわたくしの皿を持ってきた。カリカリはいつもより少ない。愛情深い家族だ。
兄が勇んで食っている。留まるところを知らない。今日に限っては妹も負けじと食う。ママとパパがむつまじく食う。さあ、ママが立ち上がって、わたくしのもうカリカリの平らげられた皿に、いま、乗せた。極上の芳香だ。
焼いたのをくれた。脂がすごい。こんなものを行儀よく食えはしない。両足を昂らせながら、床に叩きつけてやる。食っているそばから、またママが新しいのを皿に乗せてくれる。これを食えばすぐにまた食ってやれる。
しっかしなんてうまいのだろう。噛むことに喜びを見出すのは、カリカリになれた我が歯茎へのいたわりだろうか。恍惚とせずにはいられない。が、丸呑みも辞さない。もう噛んでいられない。何故ならわたくしの肉は、まだお皿の上に待っているのだから。
喉を通っていく焼肉などもうすっかり忘れて、わたくしはお皿に駆けた。
が、ない。そんなこと、あってはならないのに! たしかにママはさっきお皿においてくれた。
ふと、お皿を立ち退く影がある。むこうに落ち着いた婆の口元がもちゃもちゃしている。
なるほど、歯がないからやめておきなさいと家族に言われた婆だけど、本当は食べたかったに違いなく、わたくしのお皿からかすめたのだ。
こう察しても、わたくしは彼女を咎めるわけにはいかない。
婆はわたくしを拾った人だから。婆のもっと若かったころだが、いまでも忘れない。
だからこれで良い。婆がいつまでももこもこさせるほっぺは脂に濡れて、なんだか若返って見える。
よく噛んで食べてくれ、とわたくしは思った。おわり




