第十 マルガリーテとの出会い
探知魔法に感知魔法?!
いったいどんな魔法だ?
このメニュー画面は思うだけで表示を切り替えてくれるのは便利なんだけど、ヘルプがないのが非常に不便だ。そりゃあ、一度知っちゃえばいろいろ細かく書いてあるのは邪魔でしかないのかもしれないけど、分からないままだとどうしようもない。
探知魔法の説明、感知魔法の説明と何度も念じるが、やはり何も出ない。諦めて字面から察するしかないのかもしれないが、どう考えても誰かに捕捉された系の魔法だ。
ただ周辺マップを限界まで広げても人影を示す光点は見当たらなかったので、おそらく表示範囲外から魔法を使って来ているのだろう。
――ってか、魔法の適用範囲広すぎでしょ。
僕も探知魔法や感知魔法を使えるようになれば周辺マップが広がるのかもしれないが、無い物ねだりをしてもしょうがない。
それにまだこの探知魔法を使った相手が敵と決まったわけじゃない。もしかしたらスンナを援助してくれる味方がこちらを探してくれているかもしれないしね。
相変わらずスンナはススキもどきの草むらをゆっくりと歩いている。
周りを気にしながら、というよりどちらかというと赤子を気に掛けながら動いているようだ。
まあ、いずれにしても僕は何も出来ないので状況を見守るしかない。ただこんな草原地帯なのに、周辺マップに何も引っ掛からないのが不思議だ。普通だったら野生動物の一匹や二匹いそうなものだが、もしかして表示されないのだろうか――。
それはちょっと困る。
RPGとかなら敵の姿が見える方が鬱陶しいと思う時もあるけど、それはあくまで自分が適正レベルで戦えるからだ。
せめて敵意を向けてくる野生動物、もしくは怪我しそうな大型動物くらいは表示が出て欲しいところだけど……。
そんなことを考えていたら、急に北側から二つの光点が現れた。白色なので今のところ敵意はなさそうだが、味方というわけでもない。相手の視界に入った瞬間、敵意を向けてくる可能性だって十分ある。
こうなって来ると、逆に野生動物の類であってくれと祈りたくなる自分がいて滑稽だった。さっき探知魔法で捕捉されたことを考えれば動物の類でないのは分かり切っていたが、近場で戦いが起こっている最中、好んで近づいてくる奴なんてろくなものじゃないので、気ばかり焦ってくる。
どうか見つからないで……!
僕はやきもきしながら状況を見守っていたが、スンナは全く気付いていないのか、特に変わらずゆっくりと北へ進んでいく。
もはやどうしようもない。
そして視界の端に届くほどの距離まで光点が近づいてきた時だった。
何かに気付いたスンナの足取りが急に早まったのだ。
あれ?
光点の方に向かってる……?
そう思った瞬間、白色だった光点が青色に変わり、馬の嘶きが耳に轟いた。
「――!」
「――、――――」
馬が二頭で馬上に一人。
やって来たのは壮年に差し掛かった体格の良い男性だった。話し合っている姿から察するとどうやら知り合いらしい。スンナのホッとしたような顔が印象的に映る。
スンナは赤子を抱えながらも颯爽と馬に跨り、やって来た男と共に馬上の人となった。そのまま何の衒いも無く北へと向かい始めるのだが、赤子を片手で抱えながら、もう片方の手で手綱を握る姿はなかなかに豪胆だ。
ずっと部屋に閉じこもりっきりだからインドア派かと思いきや、本当はいろいろ出来る人なのかもしれない。
とりあえず襲われなくて良かったと一安心しながら、僕はこの先のマップを確認し始める。
周辺マップでなければ、地名が記された広域地図の確認は可能だ。
今までいたフェルシナはエミリア公国の東の起点で、すぐ隣のウィンニーリー王国の西の都市シルミウムと隣接している。今回の戦いはこの両国間の戦いで間違いない。この二国から離れるなら、向かうのは北の大国ラティウム連邦だろう。
一番近い都市タルヴィシウムまでは直線距離で50キロそこそこ。それに一応ポツポツ点在する小さな村もあるので、このままなら大丈夫そうだ。
そもそも戦いの最中に人員を割いてまで探しにやって来るとも思えないしね。
安心したらちょっと眠くなってきた。
今日は倍速モードにせず、このまま休もう。万が一何かあったらすぐ動けるようにだけはしといて、自分の部屋へと意識を切り替える。
こっちはもう深夜だ。
部屋を出てリビングのテーブルを見れば、夕食の皿にラップが掛けられていた。どうやら夢中になっていて食事を促す声さえ気付かなかったらしい。
ちょっと申し訳ない気がしたが、とりあえず食べてしまおう。
合間に透過率を下げて様子を探りつつ、冷えた夕食を少し温めただけのぬるい食事を腹に流し込む。
……何となくだけど、いつもより美味しい気がした。
―――
その後、風呂に入り、友人からのゲームの誘いを疲れているからと丁重に断ると、僕はそのまま布団に入って寝ることにする。
寝付きは悪いはずなのに、朝までぐっすりだ。
そして朝となり、目覚めは唐突に訪れる。
「セーイ? セーイ!」
「……っふぇ?」
誰かに呼びかけられ僕は目を開けようとして、その相手が夢の世界の住人であることに気付いた。
――まさか、カルラ?
だがモニター画面に出て来たのは、小学生くらいの女の子だった。
「聞こえてる? セーイ。あっ……、目が開いた!!」
「――、いい子ね。セイ」
「うん、うん。やっぱり、この子だ。スンナお姉ちゃん、しばらく私に任せてくれてもいいよ」
「――? ――ありがとう、マルガリーテちゃん」
母親であるスンナの言葉でさえ、まだ半分くらいしか理解できないのに、なぜこの子の場合は分かるんだ?
そう思っていたら、スンナが部屋から出て行ってしまった。
あれ?
今気付いたけど、ここはどこだ? 倍速モードを掛けてなかったから、実質5、6時間しか経ってないと思うんだけど、もうあの延々広がるススキもどきの草原地帯を抜けたのか?
「あはっ……、戸惑ってる、戸惑ってる」
「……ぁあぁ?」
まだ歯も生えていない舌ったらずな赤子だから、擬音でしか答えられない。それでもニュアンスが通じたのか女の子は笑顔になって、何かボソボソと唱えだす。
ピーッ!
またしてもメニュー画面から甲高い異音が響き渡り、履歴の文字が反転して文字の色が黄色く光っていた。僕はすぐさま中を確認し、そして驚愕する。
《静寂魔法を捕捉》
《言語化魔法を捕捉》
「これで意思疎通できるよ。何か話して」
「……」
えっと、どういうこと?
全く状況が分からない。
見た目、素朴そうな可愛らしい女の子から、突然魔法を掛けられたんですけど。
てか、あの探知魔法や感知魔法もこの子だったのか?!
「あれ? 何か警戒してる? おっかしいなあ。カルラ様から説明聞いてない?」
「……あ、ああ、あああ」
「あ、そうかっ! 赤ん坊だと喋れないのね。でも私の言葉は分かるでしょ?」
「……あ」
「ふふ、何か通じた!」
嬉しそうに女の子が微笑む。
特にこっちから何か意思表示を示そうとしたわけではない。あくまで赤子が勝手に反応してるだけだ。
まあでも、カルラの名前まで出してきてる以上、危害を加えるわけではなさそうだし、とりあえず様子を見よう。
「えっと、まずは自己紹介ね。私の名前はマルガリーテ。3歳の時、夢にカルラ様が出て来て、いろいろ教えてもらって魔法をいっぱい使えるようになったの。あなたも素質、凄いんでしょ? 宜しくね」
三が日には間に合いました。遅くなってすみません。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
まだ竜たちの讃歌の直しを優先する為、次回もまだのんびり更新予定です。
今年度中か、遅くとも黄金週間辺りまでには。




