プロローグ 夢の中
これまで一所懸命に生きてきた僕。
何の取り柄もなかったので、ただただ親に言われるがまま学校で勉強を頑張った。
喘息気味で部活動なんて出来なかったので、友達も帰宅部の連中だけ。
でも落ちこぼれるのが怖くて、ゲーセンとかは誘われても2、3回しか行かなかった。
カラオケも、行っても曲なんて分からなかったし。
女子に人気の奴とかスポーツが出来る奴からは馬鹿にされてたけど。
だから、頑張って大学受験に合格した時はうれしかった。
高校時代に馬鹿にされてたクラスメイトに「お前頑張ったんだな」って言われてとても誇りたくなった。
大学は高校で勉強頑張ったからちょっとだけゆっくりした。
張り詰めたものがなくなって、ほんの少しだけ友達も出来て、ゼミ仲間とちょっとした話をする程度だったけど。
それがすごく楽しかった。
もっと早くこの生活が出来ていたら学校、もっと楽しかったのかもしれない。
それで。
部屋に入り礼をして頭を上げたら、面接官三人のうち右にいた白髪交じりの怖そうな年配の人と目が合った。だが、その面接官が額の前で手を左右に振りながら「これはダメだ」と口が動いたのを見た瞬間、頭が真っ白になってしまう。
ああ、僕はやっぱりダメなんだ。
その後、自分が何を言ったのか全く覚えていなかった。
結局、面接は失敗。
それは後々まで尾を引き、最終的に就職に失敗した。
どうしたらいいのかわからない。
母親は僕が就職できたらやっと肩の荷が下りるわね、と笑顔で言っていたけれど。
ごめんなさい。僕は就職出来なかったよ。
勉強しか出来なくて、他人と接するのがとても苦手な僕は他に何が出来るんだろう。
親にも迷惑を掛けたくなくて、でもどうすればいいのかわからなくて。
その晩、夢を見た。
僕は、全てから逃げた。
何も出来ない自分を呪い、落ち込み、そして絶望した。
そうしたら突然地面が渦を巻くように陥没していって、僕はそのまま地下へと飲み込まれそうになる。
そこから逃げなければ死んでしまう。
そう思っても立つことさえ出来ず、ヨタヨタと赤ん坊のように這う事しか出来ない。
そうこうしているうちに目の前が真っ暗になり、高熱を出した時のような気持ち悪さに僕は身もだえる。
ああ、もうダメなのか。
このまま死んでしまうのか。
まあ、でも、このまま生きていても僕は全てから逃げ出すことしか出来ない。
ならば――。
もう、いいか。
そう選択した瞬間、目の前の暗闇が一瞬で光の世界へと変わっていった。
―――
「……い、セイ……さい、セイ…、目覚めなさい! セイ!!」
「うわぁあああ!?」
意識がはっきりしたら、目の前にとても綺麗な女性がたたずんでいた。
はっきりとした金色の長い髪に朱に染まる瞳が目に焼き付く。
中世ヨーロッパの修道士みたいな紫紺のローブを身にまとい、痛そうな角っぽいアクセサリーが付いた帽子を被ったその女性は、なんとも好奇心に満ちた表情で、俺の頭のてっぺんからつま先までをじろじろ眺めている。
「あ、あ、あなたは誰、ですか……?」
自分から年上の綺麗なお姉さんに話しかけるなんて今までの僕じゃ考えられなかった。でも、なぜかこの人には自分から聞かなきゃって思い、僕はしどろもどろになりながら問いかける。
「あら、いきなり初対面の女性に名前を聞くなんて、どういう魂胆かしら」
「え、あ……ちがっ……!」
「うふふ、冗談。あなた可愛いわね」
「なっ……」
突然そんなことを言われて顔から火が出る。もうほっぺが真っ赤なのが触らなくても分かるくらいだ。
「私はカルラ。初めまして、セイ。私はずぅっと、あなたを見てたの」
「え……?」
そう言ってニコッと女神は微笑んだ。
「やっと会えて嬉しいわ」
これからどうぞよろしくお願いします。
次回は6月4日までに更新予定です。