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才能は呪いとも読むらしい  作者: だーおし
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005

邂逅一番の戦い。

がちゃ、とギルドの大扉が開いた。

扉を開けたのは黒髪で端正な顔立ちをした青年。

顔立ちは端正だが、どこか没個性にも感じる。

背は平均より高め。

同い年くらいか。

軽薄な青年、といった印象。左耳の淡い紫色の3連ピアスがその原因だろうか。髪は短め。引き込まれるような黒色だ。


「よう──待ってたぜ」


血がべっとり着いた刃物を対象へ向ける。

その刀身は血より赤く、ぐにゃぐにゃと曲がっている。地方によってはフランベルジェと呼ばれているらしい。


「──なんで関係のない奴らを殺した?」


男は言う。

表情は変わらない。

なかなか肝は据わっているようだ。

多少の怒気が含まれているような口調だった。視線も少し鋭いものになる。静かな正義感に燃えているような目だ。命に関わる程には熱い。

男はポケットに手を入れて俺の正面へと歩き始める。

ぴちゃ、ぴちゃ、と靴にもはや誰のものか分からない血液が着くのも厭わずに歩く。

男に向けていた剣を下ろし、それを目で追う。


「俺が目的なら、俺だけを狙えばいい。他のギルドメンバーを全員殺す必要が──どこにある」


俺の正面に立ち、男は俺を見据える。

強い意志を感じる。


「はっ──」


くだらねえ。結局こいつも正論か。

正しさを押し付けてくる俗物か。

一気に興味が失せた。

再度切っ先を男に向ける。


「おめーと同じギルドってだけで関係はあんだろーがよ。なんだ?付き合ってる女でもいたのか?代わりに俺が付き合ってやろーか?」


くひひ、と笑って男に言う。


怒りに任せて攻撃してくるだろう。そこを薙ぎ払って終わりだ。


しかし、オレの予想は当たらなかった。


男の表情は怒気が含まれたものから皮肉めいたものへと変わり、へら、と笑って男は言う。


「まあ、素行と口が悪い以外は好みだけどな」


挑発するように首を傾け、「あ?」と続ける。


「おーおー、照れるねぇ」


悪くない。


慌てふためいて逃げようとするやつらや、泣きわめいて命乞いをするやつらよりやりやすい。

また興味が戻ってきた。


「お前が噂になってる通り魔だな?」


「お、知ってんのか。俺も有名になったもんだな」


「王都に知らない奴なんかいないだろ」


「そーかよ」


相手に名乗る趣味はない。それもあって通り魔という呼び方で定着しているのだろう。

そもそも現場を見ることができた相手をオレが生かしておくはずがない。


「んじゃ、話がはえーな。シオン=ルギウス。おめーに選ばせてやるぜ。抵抗をするか、受け入れるかだ」


歪んだ刀身を持ったまま両手を広げ、問う。


ターゲットは軽薄に笑みを浮かべたまま、あっさりと答える。


「抵抗も受容もしない。好きにしろ」


ターゲットは相も変わらずポケットに手を入れたままだ。


おもしれーなこいつ。


「うし、やるか」


殺意を解放する。

ぐにゃり、と周囲の空間が歪む。

標的に向けた刀身がぐねぐねと蠢き、部屋の時計の秒針が不規則なリズムで進む。


「これは凄いな」


感心したようにターゲットは言う。興味深そうにキョロキョロと周囲を見回す。


「んなこと言われたのは初めてだぜ。大体のやつがこの時点で泣き喚くんだが」


「凄いが、これは酔いそうだからやめてくれないか」


相も変わらず余裕な態度のターゲット。

さあ、何を見せてくれるのか。


「わりーな、殺意に比例すんだ。安心しろ、すぐ元に戻る──おめーが死ねばなぁ!」


左足を踏み込み、右手側の剣を水平に振り抜く。

刀身はぐにゃりと腕の振りに遅れてから、標的の首元へ吸い込まれていく。

歪みが広がり、周囲の机や椅子を巻き込み、両断する。がらがら、大きな音が響き、オレは言う。


「おい、てめー、、、」


自分の声が低くなっているのを感じる。


「なんだ?」


ターゲットは相変わらずの軽薄な声。


「なんで、生きてやがる」


変わらずターゲットはそこに立っていた。


「受容しないって言ったろ?」


シニカルにターゲットは笑う。


「そうじゃねーよ。1歩も動いてねーじゃねーか。俺が斬ったはずだろーが」


間合いを違えるなんてヘマはしない。

確実に殺せる一撃だった。


「ん?そうだな?」


あっけらかんと答えるターゲット。


「──おめーも、ギフトか」


口角が上がるのを堪えられない。

楽しい。楽しい。楽しい。


「ああ──人に見せるのは初めてだ」


「──おもしれーじゃねーか」


特異な能力、ギフト。


これまで何度も邂逅してきた異常者。


神から授けられた大いなる力──そう呼ばれている。


ギフトを持つだけで栄誉を約束される専売特許。


「お前のターゲットは無防備だ。丸腰も丸腰、徒手空拳だ。けど、お前の攻撃はなにもかも俺に当たらない。断言しよう。どうする?続けるか?」


「決まってんだろ──」


こんなに楽しいのは生まれて初めてだ。

異質。異常。特異。

これまでこんな奴に出会ったことはなかった。


「殺してやるよ。依頼を受けたからじゃねー。おめーを殺したくてたまらねー」


「おうそうか」


興味無さそうに男は言う。

足元に転がった机の足の破片を拾い上げ、滴る血を振って落とす。


「殺し合いなんかしねぇぞ?お前は俺を殺しに来るだろうが、俺はお前を敗北させる。確定事項だ」


くるくると木端を放り投げ、ぱし、とキャッチする。そんな獲物で俺を敗北させようというのか。


「ほら、来いよ」


木端をオレに向けて挑発する。

ここまで侮られたのもはじめてだ。


「くひひっ、じゃーお言葉に甘えて──」


両手の剣を同時に下から振り上げ、挟み込むよう振り抜く。歪んだ斬撃がターゲットを包み襲う。


歪みが左右から混ざり合い、切り刻む。


「抵抗しねーとミンチになるぜ?」


交差した両腕を開くように振り抜き、連撃を入れる。

抜け出す暇なんて与えない。

間髪入れず、次の斬撃を──


「なーにやってんだ?」


後ろから、声が聞こえた。

お遊びはここからだ。

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