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プロローグ(後) 最終決戦

本日2話目の投稿です。

プロローグは、一気に出したかったので……


 放たれた魔術は、4人を包み込むと、淡く、緑色に輝き出す。その違和感に、いち早く気付いたのは、メリッサだった。



「これは……強化魔術じゃない?」



 少し間を置いた後、マルコがこっちに突っ込んで来て、俺の胸ぐらを掴む。黒色の魔術コートが、マルコの手でグシャリと歪んだ。


 彼の手が震えているのが分かる。それが、怒りから来るものなのか、悲しみから来るものなのかは、俺には分からなかったが。



「てめぇ!嘘付きやがったな!!なんで__。なんで俺らに封印魔術なんざ掛けやがった!!」



 __そうだ。この4人に掛けた魔術は、強化魔術ではなく、封印魔術。

 この魔術は、名前の通り、自身が身につけているものに、対象を封印するものだ。当然、相手の魔力の方が強ければ、効かないし、封印したものを壊されたら、封印は解かれる。


 だが、それさえ守れば、封印が解かれる事は無い。



「主人が戦ってるのを指を咥えて見てろってのか!?俺に……!俺らにそんな屈辱を味わえってのか!!」


「……すまん、これしか無いんだ……。分かってくれ」



 怒鳴るマルコに謝る。謝っても許してもらえるとは思えないが、何も言わないよりマシだ。

 胸ぐらを掴むマルコの腕に、そっと手を置く。マルコの体は、もう消えかかっていた。


 四天王の中で一番魔力が少ないのは、マルコだ。魔力抵抗が少ない分、封印魔術が完成するのも早いのだろう。



「畜生……。俺は、主人の為に死ぬ事も出来ないのかよ」



 最後にそう残してマルコは消えた。

 それと同時に、俺の、右手の人差し指に嵌められた、指輪が淡く輝く。

 封印なんてされてやるものかと抵抗し、点滅していた輝きは、少し間を置いて、完全に消えた。



「魔王様。我は、魔王様の決められた事に口出しはしないつもりなのだが、流石にこれはやり過ぎではないか?」



 イグニスが俺を睨む。その目は、怒りというより、暗い海の底のような悲しみに満ちていた。


 __くそ、決心が揺らぐ。簡単に決意がぐらつく自分に嫌気がするが、ギリ、と歯を鳴らし、答える。



「あぁ、やり過ぎだとは思っているさ。でも、これしか……無いんだ」


「そうか……。なら、何も言うまい。しかし、忠告しておく。魔王様が殺されれば、間違いなく、我らは、復讐の獅子となるだろう。そうなれば、人間不殺の望みは、断たれる」


「はは、勘弁してくれ」



 イグニスは、また、俺をひと睨みすると、ニヤリと笑って消えていった。信じていると言わんばかりの笑顔に、不謹慎だが、暖かい気持ちになった。俺の左手の中指の指輪が光る。


 ドスッと胸に衝撃を受けた。下を見ると、いつも睨んでくる蛇が、珍しくうなだれている。  

 当の本人は、俺の胸に抱きつき、グリグリと額を擦り付けている。俺は、彼女の頭__は、少し怖い為、背中をゆっくりとさする。



「魔王様……。私達では、魔王様のお役には立てないのですか?私は……魔王様にとって、いらない存在ですか?」



 シャルエはぐしゃぐしゃに顔を歪ませて言う。目からは涙が溢れ、鼻をすすっている。胸の所からも、時々、「うぅ」と、小さく呻き声が聞こえる。蛇で顔は見えないが、泣いているのだろう。


 ここまで来ると、こちらまでもらい泣きしそうだ。

 しかし、ここはハッキリと言わねばならない。そうしなければ、俺も、こいつらも、報われない。



「いらない訳あるか。お前らは、大切な存在だ。少なくとも、俺よりも優先順位が高いぐらいにはな」


「……そう、ですか」



 静かな時間が過ぎる。この2人は、魔力量が多い為、封印に時間がかかるようだ。



「魔王様。最後に、お願い、良いですか?」


「……なんだ?」



 メリッサの背中を撫でながら、シャルエに答える。



「私も、その、そっちに行って良いですか?」


「ん?あぁ。良いぞ」

 


 俺はメリッサの背中を撫でる手とは、逆の手で手招きする。すると、ポスンとシャルエは、俺の胸に納まった。そのまま、手でシャルエの頭を撫でる。

 そのまま、無言の状態が続き、メリッサが消え、最後にシャルエが消えた。



「さてと」



 短く呟き、玉座に座る。注がれたまま、ぬるくなったワインを一口飲むと、前方にある扉がゆっくりと開いた。



「ようこそ、勇者殿。待ちくたびれたよ。さぁ、最後の戦いを始めようか」



 王室に入ってきたのは、白い短髪の青年だった。青く、ガッチリとした鎧と盾を持っている。中々に良い防具だが、俺にしてみれば、大したものではない。他の者では分からないが、俺が殴れば簡単に凹むだろう。



「貴様が魔王か。俺はアリオスという者だ。国からは、勇者と呼ばれている。さあ、正々堂々、戦おう」



 淡々とアリオスと名乗る勇者が喋る。話し合いの余地は無さそうだ。台詞に喜びが混じっている。戦いを楽しみにしているように見えた。 

 これではまるで、歩く殺戮兵器だな。



「おう、殺しにきた相手にわざわざご丁寧なこって。ただ、正々堂々?今までお前らが正々堂々と戦ってきた事があったのか?」


「今までの話じゃない。この戦いの話をしている」



 勇者は、そう言うと剣を構える。無駄がない構えだ。


 これ以上は、言うだけ無駄か。挑発も聞かなかったし。俺は溜め息を吐き、何も無い空間に手を突っ込み、そこから剣を取り出す。


 魔剣イングラス__。俺の愛剣だ。といっても、使う事なんて滅多に無い。そもそも戦いをしないからな。ただ、この戦いには必要だ。戦いたくは無いが、何もせずに殺されるなんざ、魔王の名が廃る。



「__さて、お前らに命令だ」



 両手に嵌められた指輪を見ながら言う。声は聞こえている筈だ。返事は出来ないだろうが、聴いている事を祈る。



「1つ目、俺が死ぬまで、指輪から出て来る事を禁ずる」



 当然だ。俺の魔力が少なくなれば、シャルエや、メリッサあたりは簡単に抜け出せるだろう。まぁ、守ってくれるかは、そいつらによるがな。



「2つ目、俺は、死ぬつもりはないが、仮に死んだとすればば、お前らは自由だ。どこに行っても良い。自然豊かな山や、海だろうと、人間の住む大都市だろうとな。……しかし、人間を殺すのだけは、許さん。何、暮らしていれば、喧嘩もあるだろう。それは当然だ。ただ、今言ったことだけは守れ」



 俺は、一度深呼吸する。アリオスは、構えてはいるが、攻撃はしてこない。こちらから攻撃してこいという意味だろう。油断__という訳では無さそうだ。出方をうかがっているというべきだな。



「そして3つ目だ。俺は、ここで死んだとしても必ず復活する。何十年、何百年経とうともだ。そしてお前らに会いに行く。だから、死ぬ事は許さん。生き抜け。そして、また会えた時は__」



 俺は、少し考える。俺は頼もしい、最高の手下を持った。立派な根城も手に入れた。ならば__。



「今度こそ、世界を変えよう。魔者も人間も関係ない。全員が笑って暮らせる世の中だ。人間と共に食卓を囲む魔者。魔者のジョークで人間が笑う、そんな世界だ。どうだ?面白そうだろう?」



 そう言ってニヤリと笑ってみせる。そして、大きな声で笑った。



「……何がおかしい」



 勇者が不機嫌そうに尋ねてくる。くっくっくっと笑いを堪えながら俺は言った。



「いや、最後の言葉とやらをね。極東の国では、これを辞世の句というらしいぞ?俺の場合は、抱負ともいうかもしれんがな。何なら聴くか?きっちり1時間でまとめてやろう」


「いらん!!」



 勇者は、地を踏みしめ、こちらに跳んで来る。手に持つは聖剣エクス。魔を裂き、悪を切る剣。つまりは、魔者特効の剣だ。少しでも切られたら最後、こちらの魔力は、文字通り消されるだろう。……だが!



「俺は、魔王リアス・ハーベレスト!魔王の名を持つ以上!殺さないにしても!貴様の手足程度は貰っていく!!」



 巨大な2つの魔力が、ぶつかった__。



ーーー



 神歴287年__。フロル村出身の勇者アリオスが、邪悪なる魔王リアスを討伐するべく帝都ルフィアを出発。数々の冒険を繰り広げることとなる。


 魔物クラーケンの討伐。森の王である巨大イノシシ(後にブロッカインと名付けられた)の捕縛など、様々な戦果を残してきた。


 そして、神暦291年__。遂に勇者アリオスは、魔王リアスの討伐に成功する。


 丸々1日に渡る激闘のすえ、魔王リアスはその腹に聖剣エクスを突き刺され、奈落の底まで落ちていった。

 この戦いから、魔王城と周辺の地域は、徐々に荒れ果てた魔境へと変貌していった。


 勇者アリオスも国の捜索隊に発見された時は、右足と左手を斬られ、虫の息だったという。


 そして、勇者が帝都に魔王討伐を報告した次の日、暦を神暦から聖暦に変更し、三日三晩の宴が催された。この宴の3日間はおよそ300年経った今でも破魔の宴の日として、祝日となっている。

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