紅茶の日 僕らのティータイム。
僕と陽菜と乃安の共通点は運が絡まない勝負には滅法に強いことだ。
そもそも自分の命運を変数に預けるとか気が狂ってるとすら思うのだけど。
けれど今、目の前のティーカップ。なんでも乃安がいうにこの中の一つに滅茶苦茶苦いものが混ざっているらしい。運ゲーだ。
けれどそれでも、運要素を排除するべく動くのが僕たちだ。
陽菜が鼻を近づける。匂いを嗅ぐ。ひくひくと鼻が動く。
それを見た乃安がそれぞれのティーカップに備えられていたティースプーンで一つ一つかき混ぜる。香りが立つ。
「わからないですね」
「マジか」
「うふふ」
乃安が楽しそうに笑う。
昨日のハロウィンで陽菜は乃安に何かしたらしい。その仕返しも含まれているのだろう。
「先輩、ワンちゃんみたいで可愛かったでっす」
ピクッと陽菜のこめかみが動く。
カップに穴が開きお茶が蒸発するのではないかというすさまじい目力で一つ一つ凝視する。
そこで僕はふと気がついた。
「あー。そういうことか」
「あっ、わかりましたか?」
「うん」
僕は迷わず一つ手に取る。それを飲んだ。
「うん、美味しい」
「流石、相馬先輩です」
よく見れば気づける。そんな違い。
それは単純な事。
香りを嗅げば気づけるなら、陽菜を騙せない。
それなら、ね。
「同じお茶の味を弄って美味しいお茶を作れば良いだけよ」
苦味に顔をしかめる陽菜を堪能して、普通のティータイム。
「どこで見分けたのですか?」
「乃安はちゃんとヒントを残していたんだよ」
「いつですか?」
「かき混ぜた時だよ」
「えっ?」
「最初出された時点では全部同じお茶」
乃安を見る。表情は変わらない。
「ティースプーンには多分蜜でも塗られてたんじゃないかな」
それが溶け出して初めて味に違いが出る。
「だから僕はティースプーンで見分けたんだ」
「正解です。先輩。さて、今日は紅茶の日らしいです。犬の日でもあるそうですけど、ワンちゃんみたいな陽菜先輩見れたのでOKとしましょう」
乃安は満足気にティータイムを堪能する。
陽菜は悔しそうな顔をしながらクッキーを頬張る。
陽菜が昨日のハロウィン、乃安にした悪戯。それは乃安の仕事を全て奪い去るという物だ。
陽菜が普段より二時間早く起きて、夕飯の仕込みも全て終わらせてしまうという。
乃安は普段夜に朝食の仕込みを終わらせるのだが、その日は陽菜が済ませた。それ自体は良くある。が、乃安の朝の衝撃はすさまじく。さらに陽菜は早めに帰宅し夕飯も作ってしまったのである。
この姉妹のような二人は仕事を取られることを何よりも嫌う。
「トリック&トリートです。乃安さん、美味しいデザートをお願いします」
「はい!」
そしてアフターケアも忘れない陽菜であるが、乃安のリベンジは果たされ、今渋い顔をする陽菜であった。