ここはどこ? 2
傘が倒れた方向に歩き始め、どれほどの時間が経ったのだろうか。
横に伸びていた影が段々と短くなっているのを見るに、朝方から昼間へと経過しているのはわかるのだが、残念な事にスマホの電源がつかなければ正確な時間まではわからない。
とはいえ、天候が悪くなる様子は無く、気温も春先のうららかな陽気とでも言えばいいのか、暑過ぎもせず寒過ぎもせずといった感じで、長時間歩いている割には汗も掻かずに歩いていられるのは幸いだ。
一つ不満があるとすれば、本当に何もない事だろうか。
最初は、見る事のない広大な平原の景色を驚嘆しながら眺めていたのだが、それが何の変化も無くずっと続いていては飽きる。しまいには、そこらで小石を見つけて、顔を上げる事無く黙々と小石蹴りをして歩き始めていた。
またそれも飽きてきているわけだが。
どうしたものかと、ポケットに仕舞っていたスマホを取り出し、改めて電源を入れてみようと試みる。当然のようにスマホは一切の反応を示さない。それに小さくため息を吐きながら、再びポケットへとスマホを仕舞いこんだ。
自分自身、この状況にだいぶ参っているのを自覚する。
何とか動き出す事はしてみたものの、景色は一向に代わり映えはせず、通行人の影も形もない。どうにかしたいと思った時にした事が、全く動かなかったスマホにもう一度頼るという行動。
「あー! もう! ……お?」
思わす声を上げ、小石を力一杯蹴り付ける。
当たり所が良かったのか、小石が綺麗な放物線を描いて飛んでいく。それを顔を上げて目で追っていると、道の先の変化に気付いた。
どうやら、今の位置から少し先の道幅が広がっている様子だ。
たったそれだけの変化だったが、待ち望んでいた今までと違う何かに小走りで近寄る。近寄ってみると、そこはちょっとした広場のようになっていた。
草が刈り取られた歪な円形の広場。その中央で焚き火でもしたのか、何か燃やした後と思われる灰に、それを取り囲むように設置された座るのに丁度良さげな岩。
「キャンプ地? こんな所に?」
思わず首を傾げて、ふといやな予感が思い立つ。
まさか、此処で一夜明かす事がある程に近辺に何もないのだろうか。
「まさか……そんなまさか、ね。ハハハ」
流石に自分の考えすぎだと笑い飛ばそうとするも、思わず乾いた笑いになるのは仕方のない事だといいたい。しかし、この状況だ。最悪の場合を考えていた方がいいだろう。
そうなると、今出来そうな事といえば、焚き火跡が熱を持っているかどうかくらいだろうか。
中央の焚き火跡に近寄って、その場にしゃがみ込む。火が燻ってないか、目で確認してから手をかざすも、熱さは全く感じられない。
「……えい」
私は少しばかり逡巡し、思いっきり灰の中に指先を突っ込んだ。指先に感じる感触に、熱はない。
大丈夫だろうと思っていたけど、気付かずに力んでいた肩をおろしてホッとする。
「水で濡れてる感じも無し、かぁ」
灰から指先を抜き出してこすり合わせる。
少なくとも、すぐ先ほどまで此処に誰かが居たという事はなさそうだ。とはいえ、専門的な知識も何もない私で分かるのはそこまでで、大した情報が得られなかった事に少し落胆する。
熱が残っていて、人が去った後だった。という結果よりかは断然マシではあるのだけど。
小さくため息をついてから立ち上がり、大きく伸びをする。長時間俯いて小石を蹴っていたからか、体が硬くなっている気がした。それに、空腹感。
思えば、午後10時にバイトが終わってから何も食べていない。元の時間から考えると、既に深夜の時間にすらなっている可能性もある。
「ちょっと休憩……」
幸いな事に、惣菜パンや飲み物を買っていたので、広場の岩に座って食べる事にする。数時間前の私、本当にナイスである。贅沢を言うなら、今の謎な状況にならない様帰り道を変えて欲しかったが。
「まぁ、起こった事に文句を言っても始まらな──あぁぁッに!? なになに!? なんかグニってした!!」
岩に腰を下ろした時、お尻で何か柔らかいモノを踏み潰した感触に、私は慌てて飛び退きながらお尻に手をやる。
何か付いていたり、濡れた感触はなかったが、気が動転して何度も叩き払いながら岩を見る。




