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エルフの学校 〜少年少女の物語〜  作者: Niko
-第1章- 英雄に憧れる少年と“力”
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1.2 噂の校長先生

 入学式から数日後、少年は教室の窓側の席で一人、一枚の用紙を見ながら悩んでいた。今は放課後であり、窓から入った春の風に彼のトレードマークである茶色がかった赤毛の髪が(そよ)ぐ。

 彼の見ている用紙はいわゆる“クラス分け”の希望用紙であり、用紙には剣術や槍術といった名前が書かれていた。


 エスティア学園では、世界史や語学、算術などの基本的な授業の他に、武術や魔術など専門的な知識についての授業が存在する。そのため、入試時に武器や格闘術を教わる武術系コースか、魔法に関わることについて学ぶ魔術系コースかを選択するようになっている。

 少年は武術系コースにおり、武術系コースの授業の目玉の一つに、自分が使いたい武器を一つ選んで、その武器の武術について学ぶ授業があるのだ。

 騎士や冒険者を目指す学生にはこの選択はとても重要であり、将来を左右する選択である。何せ、その授業には学園の教師の他に実際の冒険者ギルドの教官や騎士隊の方が講師として来てくれるのだ。

 ここのOBである彼らが丁寧かつ熱心に指導してくれるのだ、授業に真面目に取り組めば力がつくのは間違いないし、そこで講師の目に留まれば、卒業後、冒険者や騎士として講師の方から勧誘されることもあるのだ。なので、自分がこれから先、ずっと使っていくであろう武器を選ぶ必要がある。

 

「まだ悩んでんのかよ、ジーク?」


 出入口から不意にそう声をかけられ、赤毛の少年、ジークはそちらを見ると、深緑色の髪をした少年が扉に手をつきなながら、呆れ顔でこちらを見ていた。


「リュート、残念ながらまだ決められないんだ。」


 リュートと呼ばれた少年は、ジークのクラスメイトである鱗人族(リザードマン)で、ジークの前の席の、このクラスで初めてできた友達である。入学初日からよく喋り、寮の部屋も近いのでクラスメイトの中では一番仲がいい。

 鱗人族(リザードマン)特有の爬虫類を思わせる黄色い眼を半目にし、しかめっ面のままジークの隣に立つ。そしてトカゲのように鱗に覆われた尻尾を床に垂らし、尻尾の先で、ペタン、ペタン、と床を叩いている。これはイライラしている時のリュートの癖だ。


「さっさと決めろよ。締切明日だろ。このままじゃ人数の少ないクラスに適当に入れられちまうぜ。」


「そうなんだけど、う〜ん……。」


「んあぁ、もうじれったい!ジークは剣術を習ってたんだろ。だったら、俺と同じ剣術クラスにすればいいじゃねぇか。」


「う〜ん……。」


 二人がこんな感じに話していると、再び出入口の扉が開く音が聞こえてきた。


「貴様ら、こんな時間に一体何をしているのだ。」


「お、委員長にシズクさんじゃん。聞いてくれよ。忘れ物取りに戻ってきてみたら、ジークの奴、クラス分けの用紙まだ提出してねーんだよ。」


「えぇ!提出期限って明日までじゃなかったですか?ジーク君、大丈夫なんですか?」


 委員長と呼ばれたのは、ソニアという名前の、ジークが入学式で出会った人馬族(ケンタウロス)の女子だ。ジークたちのクラスの学級委員長を務めている彼女は、ある獣人族(セリアンスロープ)の国の有名な貴族の娘であり、家名まで含めた本名は長すぎて覚えられなかった。

 もう一人のシズクはソニアの隣の席の人族(ヒューマン)の女の子で、綺麗な黒髪に清楚そうな容姿をしている。この王都ラインハルトの生まれなので、勇者伝説が多く残る国特有の変わった名前をしている。この四人の中では唯一の魔術系コースであり、治癒系統の魔術を習っている。


「シズクさん、残念ながらイマイチこれだ!っていうのがなくてね。授業のオリエンテーションで一通りの武術は見たんだけど、どれも違う気がして……。そういえば、ソニアさんは槍術だったよね。」


「あぁ、我が一族は代々槍の名手として名を馳せている。私も一族の一人として槍術を会得し、願わくば、一族の代表として名誉ある戦いに(おもむ)き、武勲を挙げたいと思っている。貴様は剣に覚えがあるのではなかったか?ならば剣術を選べば良いではないか?」


「そう俺も言っているんだがなぁ。イマイチ乗り気じゃなくてな。何か違う気がするんだ、とかぶつぶつ言ってやがるし。」


「まあまあ、このクラス分けって騎士や冒険者志望の人にとってはかなり大切なんですよね。そして、確かジーク君の夢は“英雄”になることでしたし……。まだ1日ありますから、焦らず今日1日納得がいくまで考えてみましょう。私達も相談乗ってあげますから。ね、ソニアちゃん。」


「……構わないが、シズク。まずは忘れ物を回収しておきなさい。それにしても、自己紹介のときに堂々と“英雄”志望した奴がまさか武器選びから(つまず)くとは……。先が思いやられるな。」


 ソニアがそう言うと、シズクは慌てて自分の席へ行き、ジークは苦笑してしまった。

 その時、強い風が吹き、用紙が窓から外へ飛んでいってしまった。


「しまった。ごめん、取りに行ってくるよ。」


 そう言ってジークは廊下へと駆け出していった。


 ◇ ◆ ◇ ◆


 ジークは用紙が飛んでいったであろう中庭に着いた。中庭は様々な草花に彩られており、生徒たちの憩いの場として人気の場所である。

 ジークが用紙を探していると、ふと中庭の奥の方に人影が目に入った。その人物は薄い金色の髪を肩まで伸ばしており、緑色のローブを纏っている。よく見ると、手には一枚の紙を持っているように見える。


「あの、すみません。」


 ジークが声をかけると、その人物は振り返った。濃い碧色の目がこちらを見つめてくる。そして、特徴的な長く尖った耳が見える。


「おや、これはあなたのですか?」


「こ、校長先生……。」


 これがジークと校長先生の面と向かって話す初めての機会だった。

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