1.1 英雄に憧れる少年
「ここがあの有名な“エルフの学校”か〜。」
少年はそう言って、校門の前に立った。
少年の前にある学校はエスティア学園と呼ばれる学校である。
この王都ラインハルトでは最古と言われるほど歴史ある学校であり、歴代の卒業者には王家の近衛騎士となった者や有名な魔法技師、名のある冒険者などが名を連ねている。
そして、この学校の一番の特徴として、この学校の校長は長年一人の森人族が務めていることである。さらに、この校長先生に見出された生徒は将来有名になるということも特徴である。
そのため、このエスティア学園は通称“エルフの学校”として、王都やその周辺諸国、さらには海を渡った他の国にまで知られていた。
「おい、そこの赤い髪の人族のお前!門の前で立ち止まるんじゃない。邪魔だ。」
そう言われて、少年は後ろを振り返った。そこには、自分よりはるかに大きい女性が立っていた。服の上からでもわかるほどの立派な胸が少年の視界を覆い尽くす。
「何をジロジロ見ているのだ。」
「ごめん!えっと、その、リボンの色が僕と同じだから、もしかして僕と同じ新入生なのかなと思って。」
慌てた少年の若干苦しい返答に呆れ混じりに笑った彼女は、「そうだ。」と少年に短く答え、少年の横を通っていった。
先に行った彼女を少年は再度見る。彼女は身長は2mを優に超えており、容姿は淡麗で、長い金髪をまとめたポニーテールをたなびかせて歩く様は凛としていて、本当に同級生なのかと疑ってしまうほど大人びた印象を受ける。学校のセーラー服を着ていなければ、絶対に学生には見えないだろう。そして、一番目を引くところに注目する。
「あれが獣人族の人馬族か。」
そう、彼女は上半身が人で下半身が馬だったのだ。
少年は周囲を見回してみる。すると、自分と同じ人族の他に人族の容姿に獣の耳や尻尾などが生えた獣人族や長く尖った耳が特徴森人族の、背が低いが筋肉質の身体を持つ山人族など様々な種族の学生が門をくぐって行く。
ここ王都ラインハルトのあるゼノビア王国は異世界から召喚された勇者によって作られた王国として知られており、勇者の伝説や勇者の遺物などが数多く残っている。その中には、勇者は人族以外の種族とも友好的な関係を積極的に結んでおり、他種族の国に出向いたり、他種族の国の王族を王都へ歓迎したという逸話がある。
そのため、この王都ラインハルトは、人族が治める国でありながら多くの他種族が訪れたり、住んでいたりする。また、それに合わせて他種族の人々に配慮された設備や法律などが数多く存在している。
そして、このエスティア学園もその例外ではなく、留学生や地元の他種族の学生が数多く在籍しており、他の人族の国から留学してきた少年から見ると、他種族は珍しいのだった。
「君、新入生だよね?」
不意に声をかけられて前を見ると、犬のような耳が生えた女子とその後ろに頭から2本の角が生えた大きな男子が小さな箱を持って立っていた。
「はい、そうです。」
「良かった。それじゃ、この花飾りを胸のあたりにつけてね。」
そう言って、犬耳女子は鬼人族の男子の持っている箱から花飾りを一つ取り、少年へと渡してきた。「ありがとうこざいます。」とお礼を言いながら少年は花飾りを受け取り、服の左胸部分につけた。
「いいね〜。キマってるよ。」
「ありがとうございます。」
「いいな〜。初々しい感じがたまらないね〜。ねぇ、そう思うでしょ。」
「知らん。それより新入生は他にもいるんだ。そろそろ行くぞ。新入生のお前もそろそろ入学式の入場が始まる。早く行け。」
そう言って、鬼人男子は犬耳女子の首根っこを掴み、そのまま彼女を引きずっていった。しかし、引きずられているのをお構いなしに、彼女は少年に向かって、両手と尻尾を大きく振って、「まったね〜」と叫んでいた。
(今のは3年生と4年生の先輩か。)
この世界では、地域差はあるものの15歳を超えると大人として扱われる。
そのため、子どもは5歳から10歳までを国語や算数などの一般的な教養を学ぶ初等学校に、11歳から15歳までを世界史や地理、数学や外国語など幅広い知識を学ぶ高等学校に通うのだ。そして、高等学校の中には魔法や武術について学ぶことができる学校もある。
エスティア学園は高等学校であり、生徒の学年は首に結んだ学校指定のネクタイやリボンの色を見ることて判断できる。今年の新入生は赤色で表されており、ジークのネクタイや先程の人馬族の彼女のリボンも赤色である。そして、先程の犬耳の女子生徒のリボンは緑色で3年生を、鬼人の男子生徒のネクタイは青色で4年生を表していた。
「さて、行くか。」
少年は、改めて服装の乱れがないか確認して、期待に胸を膨らませながら入学式の会場へと向かった。
(僕は“英雄”になるんだ!!)
そう心の中で言いながら。