プロローグ
「今日はどれにしましょうか?」
その人はそう言って棚の前に立った。
彼のいる部屋は小さな教室程度の大きさで、出入り口となる扉と対になるように、反対側の壁には大きな窓がついていた。夕暮れ時なのか、窓からはカーテン越しにオレンジ色の光が差し込んでいる。
その部屋には一人用の机と椅子以外に家具らしい家具はなく、辛うじて扉の上の壁時計と窓の側に観賞用の植物があるくらいだった。その代わり、扉と窓がついているところ以外の壁は全て棚になっており、ほとんどの棚に紺色のカバーがされた分厚めの本が隙間なく仕舞われていた。
「今日はこれにしましょうか。」
そう言って、彼はその中から一冊を取り出す。そして、机の上に本を置き、椅子に腰掛ける。本を開くと中には写真が一面に貼られており、その本はいわゆるアルバムになっていた。その本を彼は懐かしむように1ページ、1ページめくり、中の写真を見ていったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
アルバムを中ほどまで読み進めた頃、コンコン、と不意に扉がノックされる。「どうぞ。」と彼が言うと部屋の中に一人の女性が入ってきた。
「失礼します。校長先生、やはりこちらにおられたんですね。」
彼女はそう言って扉を閉める。どうやら彼を探していたらしい。
「バレちゃいましたか。」
校長先生と呼ばれた彼が茶目っ気混じりにそう答えると、彼女は少し呆れ顔をする。
「何言ってるんですか。先生は暇さえあればここに居るじゃないですか。まぁ、こちらとしては探す手間が省けますけどね。」
彼女にそう言われ、校長先生は苦笑してしまう。
「それより今読んでる、その卒業アルバムはいつのなんですか?」
「これですか?これは今から50年程前のものですよ。」
そう校長先生がそう答えると、彼女から「へぇ〜。」という声が漏れ、そして、彼女も校長先生の隣に立って一緒にその卒業アルバムを読み始めた。
「やっぱり今の学校とはいろいろ違いますね〜。」
アルバムの写真を見ながら、彼女は現在と写真が撮られた当時との間にある時間の流れを感じる。そんな中、ある一枚の写真が彼女の目に留まる。
「だけど、やっぱりあれですね。」
そう言って、彼女は校長先生の方を見る。
「校長先生だけは当時も今も変わらないんですね。」
そう言われて、校長先生は彼女の方へ顔を向ける。碧色をした瞳が彼女を見る。
「それはそうでしょう。」
校長先生は得意気にそう言う。そして、肩まで伸びた薄い金色をした髪を掻き上げて、その特徴的な長く尖った耳を彼女に見せる。
「なんたって私は森人族ですから。」
満足そうに言い切った校長先生に、彼女は「それもそうでしたね。」と笑顔で返す。
そして、本を読むのを再開しようとした校長先生は、突然何かを思い出したかのようにその手を止め、彼女に尋ねる。
「そういえば、あなたはどうして私を探していたのですか?」
「そうでした!先程、先生宛てに手紙が届いていたんです。だから、それをお届けしようと思いまして…はい、これです。」
そう言って彼女は慌てて懐から一枚の手紙を取り出し校長先生に渡す。校長先生が差出人の名前を見ると、少し目を見開いて、「懐かしいですね……」と呟く。
「この手紙をくれた彼はね、ここの卒業生なんですよ。ちょうどこのアルバムに載ってますよ。……ほら、この子です。」
そう言って、校長先生は写真に写った一人の少年を指で差して彼女に見せる。
「一体どんな子だったんですか?」
彼女は校長先生に訊いてみる。すると、「そうですね……」と校長先生はその子について語り出したのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
このお話は、長年ある学校の校長先生を務めているエルフとその学校の生徒たちの物語である。