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《 黒の英雄 》  作者: 海 黄色
第一章 世界が入れ替わった日
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第一章 第3話 『目覚めた魔、それはすべてを飲み込む深い闇』

 



 アキトは意識を失ったまま時空の割れ目の中を狼のような魔物と落ちていった。



『クソッ、あんなご馳走がそこら中にある世界に行ったのにまた呑まれちまうなんてーーーー』



 魔物は遥か彼方に遠ざかった閉じた割れ目を恨めしげに眺めた。しかし魔物はそこまで気を落としていなかった。何故なら極上の獲物を手に入れたからだ。尾にしっかりと掴んだこの子供は今まで喰った人間の中で飛び抜けて良い味がした。この子供は何かが特別なのだろう魔物はそう感じた。こんな人間はきっとあちらの世界にもこちらの世界にもいない、この子だけだということも。そう感じさせる程アキトは魔物にとって最高の食材でそれだけ魔物も人間を食してきた。



 意識の無いアキトの額から止めどなく血が溢れる。魔物はそれを長い舌でベロリと舐めた。瞬間脳が痺れる程の旨味が身体中に広がった。



『あぁあ!!最高だ!!』



 喜びのあまり笑いが止まらない魔物。



『フハハハハハハッ!!神よ!ありがとう!オレはこの時のために生まれてきたのだ!!このガキはオレが血の一滴まで吸い尽くし、骨まで残さず喰ってやるよ!!あちらの世界に着くまでにな、横取りされたらたまったもんじゃない、ヒヒッ』



 魔物は大きな口を最大まで広げる。それは大人ひとりを優に飲み込めるほどの大きさだ。口の中は鋭い歯が所狭しと生えよだれが滴っていた。魔物はアキトを丸呑みにして腹から少しずつ出して食べるつもりでいた。



『アリャーーーー?』



 しかし魔物にはそれが出来なかった。何故なら開いた口は下半分が顎から斬り落とされていたから。魔物は遅れてきた激痛に悶える。


 化け物に冷たい視線を向けるのはアキト。開いた左目はどこまでも暗い深い闇を宿していた。その闇は左目から右目、頭へと黒い霧のようなものを出している。



『ーーーーーー済まない、アキトーーーーやはりアキトが死ぬのは了承できないーーーーーー』



 今のアキトの体を操っているのはクロだった。


 クロの中には力が溢れていた。力は外から中から時間を置く毎に増し、強くなっていくのが分かった。先程までのクロとは桁違いの力が溢れていた。

クロにはこんなことは初めてだった。アキトの体を動かすのも自分から積極的に外に干渉するのも。今までに感じたことのない力。それは強大で恐ろしくもあった。しかし今のクロにはこの力でアキトを守ることが最優先だった。



『なんだオマエはぁ!!?』



 魔物はいきなり現れた言い様の無い恐怖に大切にしていた獲物だということも忘れ拳を振るう。


 しかしふるったはずの拳は一瞬にして肉塊に変わる。飛び散った肉片が自分の顔にへばりつく感触に魔物は怯えた。




『あぁ、あぁアギャアアァアア!!』



『ーーーーーー私には私が何か分からないーーーだから答えられないーーー』



 腕を斬られた魔物は息づかいも荒くアキトの体を操るクロに問いかける。



『ゼィ・・ゼィ・・オマエ、さっきまでの餓鬼じゃねぇな?・・そいつはお前のお楽しみだったってわけかい、さっきは何故本気を出さなかった?』



『ーーーー私はアキトと共いるだけだーーー食おうとは思わないーーー何故急に力が湧き出たのかは分からないーーー』



『バカな!オマエは魔の者だ。そうだろ?それがそんなに美味い餓鬼を喰わずにいれるわけがない』



『ーーーー私にはその考えが理解できないーーーー』



『本当にバカなやつだな。良いことを教えてやろうか、どうせオレはオマエに勝てないからな、オマエらがこれから行く世界はオレみたいな魔の者がうじゃうじゃいる。勿論オレなんかがゴミみたいに思えるような強いヤツもだ。そこでそのガキだ。そいつはオレ達を惹きつける。極上の獲物だ。誰もほっとかないだろう、それだけの魅力がそのガキにはある。丸腰でそこに投げ出されて生き延びれると思うか?オマエが守るにしても多勢に無勢だ。あっという間にバラバラに食いちぎられて終わりだろうよ』



『ーーーー世界が変わろうとやることは同じだーーーー』



『ナイト気取りか。ケッ、まぁいいさオレには関係ない話だ。さぁヤレよ。最後にたらふく喰えたんだ。最高な味見もできた思い残すことは無い。ギャハハ』



 ゾゾゾ、とアキトの体から黒い(もや)が這い出る。それは何本もの尾のようになりゆらゆらと揺れた。魔物は生つばを飲む。



『もしかしたらオレは最期にとんでもないものを故郷に持ち込んじまったみたいだな』




 ドガガガッ




 クロは黒い尾でいとも容易く魔物を斬り刻んだ。それは一瞬の出来事だった。



 粉々になった魔物の体は時空の中で散り散りになった。



 クロは落ちていく魔物の瞳に映る自分の姿を見つめる。




『ーーーー私は何者なのかーーーーーー教えてほしいーーーー』




 小さく呟く声に応える者はいない。クロは静かに目を閉じた。






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