第一章 1話 『プロローグ』
夕方の校舎裏。
人通りがないこんな場所でされることはひとつ。
「なぁなぁお前さぁ、なんで学校来てんの?」
「そうそう、お前みたいな陰気不登校野郎は大人しくお家でママのおっぱい吸ってろっての。学校来なくていーから、マジで。邪魔なんだよ」
「中学の時みたいにボコッてやろーか?ああ??」
「学校来たら俺らのサンドバッグになるの分かってるよな?」
グッと胸ぐらを掴まれる。
「お前のこの眼帯もうざいんだよなぁ・・・。病気だか、見えないんだか知らねぇけど・・お、そうだ俺にくれよ、最近右目が痒くてよ」
ぎゃははとだらしなく笑う不良三人。
一人が眼帯に手を伸ばす。
絡まれている方の少年は反射的に眼帯を押さえた。
「・・はーん。刃向かおうっての?マジイラつくわ」
「お前が俺らに抵抗するのって初めてだよな。そんなにその眼帯が大切なのかよ?笑えるわ」
「そうだよなぁ、お前から眼帯とったらなんにも残らないしなぁ。印象薄すぎて消えるんじゃね?こいつ」
「それ笑えるわ!」
髪を鷲掴みにされ壁に叩きつけられる。
「っ・・・」
鈍い痛みが腹に伝う。蹴られたらしい。
こんな風に絡まれるのは今までにも何度もあった。始まりは何が原因だっただろうか、覚えてはいない。ただ自分は他人の目を引きやすいらしく自然と因縁をつけられては殴られた。
少しでも存在を消そうと前髪を長く伸ばしたら多少良くなったが、昨日生徒指導の教員に切られてしまった。今時珍しい校則だがこの学校では普通だ。スカートは膝下。靴下は白か黒。化粧は厳禁。親の送り迎えは禁止。髪は黒色、前髪はまぶたにかからない程度ーーー。
かかるか、かからないかくらいの、いや実際は目が隠れるくらいまで伸ばしていたが教師達は目を瞑っていた。誰も生徒の髪を切りたくはないだろう。しかし、新しく赴任した生徒指導の教師が見つけるやいなや指導室に連れ込まれバッサリ切られてしまった。
それでこの状況だ。
恨みはしない。教師は教師としての仕事を全うしただけだ。
そんなことを考えていたら目の前に拳が飛んでくるのが見えた。
ーーーーあぁ、またか
振り下ろされる拳を見ながらそんなことを思う。
『ーーーーーーアキトーーーー危ないーー』
突如少年の頭の中で声が響く。しかし少年は驚かない。
「クローーーーやめ・・」
少年は何かを制止しようとしたが既に遅かった。
少年の目の前で拳がピタリと停止している。
「ん?ショウちゃんどーしたんだよ?」
「なになにビビらせてんの?いーねー」
「な、ちげーよ・・腕が動かねー・・」
ショウと呼ばれた不良の腕は空中で止まったまま停止している。
他の二人は顔を見合わせる。
「は?何言ってんだよ?ギャグ?」
「マジで動かねーんだって!どうなってんだよお!!」
ショウは止まった右腕を左手でぐいぐいと引っ張り始めたがその場に固定されているかのように右腕は動かない。
「ど、ど、ど、どーなってんだって、助けてくれよぉ!!!」
ショウは真っ青になってその場から抜け出そうとするが右腕がビクともしない。
「なんだよこれ!!」
「動かねーよ!」
他の二人も引っ張るが腕はビクともしない。
ーーーーーークロ、やめるんだ。今すぐーーーー
少年は頭の中で何かに問いかける。すると何かは不満そうな声で応えた。
『ーーーー私が動かなければアキトがやられていたーーーーー』
ーーーーーいいんだ、それで。俺は構わないーーーーーー
少し間を置き何かは応える。
『ーーーーーーーーやはり、私には分からないーーーー』
と。
腕の縛りが解けた不良達は一目散に逃げて行った。その後ろ姿を見ながら秋斗は言った。
「クロ、お前のせいで俺は明日から更に嫌われそうだ」
多少の間を置きクロは言った。
『ーーーーーーーー私には分からないーーーーアキト、教えて欲しいー』
と。