魔王の序章
思い立ったが吉日。ということで書きはじめました。基本的に絵を描く方が好きな人間なので生暖かく長ーい目で見て頂けるとありがたいです。
生臭い鉄の匂いが鼻についた。
薄暗い室内。外から入る僅かな明かりがその二人を写し出す。
一人は赤黒い液体の上で無造作に転がる少女。もう一人は、赤黒い液体に濡らしたナイフを片手にもつ青年だ。
俺は息をするのも忘れて目の前に転がる少女に駆け寄った。冷静に考えればナイフを持った青年を先にどうにかするべきだったのだが、その時は頭がいっぱいだったのだ。
何故ならそこに転がる少女は……。
俺の。
たった一人の。
家族なのだから。
「ーーなぎさっ!」
転がる妹の肩に触れると冷たくて、思わず手を引いた。
乱れた服、乱れた髪、ガラスのような目が光に反射してまるで壊れた人形のようだった。
「……なに、オマエ」
そう聞こえたのと同時に、鈍い衝撃が走った。
視線を上げた先に青年の顔がある。
「せっかく余韻に浸ってンだからさァ。邪魔しないでよね」
余韻?
まさか、俺がこの部屋に来るまでずっと見てたっていうのか?
こんなに冷たくなるまで、俺の妹を……。
たった一人だけの家族を。
放置してたっていうのか。
こんな状態で。
「……ぶっ殺す」
殴ろうとして、力が入らなかった。
立ち上がった足が体重を支えきれずにカタカタと震える。なんだか背中が熱い。
「ぶっ殺す?」
青年が首を傾げてニタニタと笑う。
「もうオマエ、死んでるのに?」
足元の血だまりが増えていく。
そうか。俺、さっき刺されたのか。背中が熱い。熱い。熱い。でも……。
明かりに写し出された青年の顔を睨み付ける。
金髪。切れ長の目尻。勝ち気な眉毛。整った顔立ちに醜い笑顔。
背中が熱い。でも、そんなことよりも。
「俺は……ぜったい。お前を……」
殺す。
……………………。
気がつけば目の前に少女がいた。
白く長い髪。丈の長い着物。赤い瞳。頭には気味の悪いお面がついている。
「ふむ。これはなかなか面妖な格好になったものだ」
少女は自分の姿を見てクルリと回る。
「ふむふむ。気に入った」
……なんだコイツ。
俺の考えに反応したように少女が俺を見る。
「な、なに?」
「なに?と問うか。我に」
問うだろそりゃ。ワケわからんし。状況が。
というか。
少女の周り以外が黒い。暗い?他に何もない。夢だろうか。
「……夢ではないな」
少女が答える。心を読まれてるのか。
「ついでに言えば貴様の妹が殺されたのも夢ではないな」
「っ!?」
頭が煮える。あの光景がフラッシュバックして、ヤツの、ナイフを持った青年のニヤけた顔が目の前を赤く染める。
「甘美な復讐心だ……だが。このままでは貴様は死ぬな」
このままでは?
「どうゆうことだ」
「理解を拒むな。貴様が一番よく分かっているだろう」
俺が……死ぬ。俺はあの時、アイツに刺されている。
死ぬのか。やっぱり。
いや。
「まだ死ねない。アイツを殺す。ぜったい殺す」
「良いね。実に良いね。なれば我が提案しよう」
「提案?」
「そう。提案。貴様……」
ーー魔王にならないか?
「………………は?」
「だから別世界で魔王をやってみないかと聞いている」
何故そうなる。
俺は一個人を殺したいのであって大多数に混沌をもたらしたい訳じゃない。
話の展開的になにかあるとは思ったが期待外れもいいところだ。
「ふざけてるのか?」
俺の問いに少女は口の端をニヤリと吊り上げる。
「別にふざけてなどおらんよ。そうさね……」
真っ暗な空間に映像が浮かぶ。
そこには憎いナイフ男の顔が写し出されている。
なんのつもりだ。そう言おうとした俺の言葉は少女が発した言葉で書き消された。
「この男がその世界で勇者になった。と言ったら、どうする?」
………………勇者。
「…………は、」
思わず失笑がこぼれた。
勇者?この男が。この殺人鬼が勇者。
なんだそれ。
なんだそれ。なんだそれ。なんだそれ。なんだそれ。なんだそれ。なんだそれ。なんだそれ!
ーーふざけるな。
「……それで?俺が魔王にだって?」
「貴様が適任だと我は考える」
口の端がつり上がる。
「つまり勇者を殺せってことだよなァ!?」
目の前の少女が何者なのかとか気にならないと言えば嘘になるが、正直、ヤツが殺せる可能性があるならどうでもいい。たとえコレが夢だとしても俺の答えは1つだ。
「だったら俺が、魔王になってやるっ!」
少女がニヤリと笑う。
「良いね。実に良いね。棗ソウヤ。貴様が今から魔王だ」
明るい話しが好きなのですが、最初から暗く始まりました!これから明るくほわっとした感じにしたいと思いますので。……なるべく。……きっと。
ハッピーエンド目指して頑張ります。