池手名 伊三(いけてな いぞう)物語 ~うっとしいおっさんが行く~
池手名 伊三(いけてな いぞう)物語③ ~熱帯魚編~
こんなおっさんおったらうっとしいやろなぁっていう、架空のおっさん「池手名伊三」シリーズ第三弾です。今回は同期の新居に遊びに行くという設定にしてみました。今回も前回同様、ゆるい感じで思いつくままに書いておりますので、ゆるい感じで見ていただければ嬉しいです!
「池手名、いらっしゃい」
「お待ちしておりました。どうぞお上がりください。」
玄関のドアを空けると、同期の田中とその妻が迎えてくれた。
「すみません。おじゃまします。」
広めのキレイな玄関には、新築の香りが漂っていた。
いぞうの同期、田中はいぞうと同い年の40歳。いぞうは開発部門だが、田中は営業部門である。33歳の妻と、小学2年生の息子がいる。これまでは賃貸のマンションに住んでいたが、この度、立派な一戸建てを購入した。
この新居にいぞうが招待され、今日、お邪魔しにきたという流れである。
「奥さん、本当に、広くてキレイで素晴らしいお宅ですね。あ、これ、つまらないものですが」
そう言って手土産の日本酒を渡すいぞう。
「え?そんなのよかったのに。気を使わせてしまってすみません。でも、ありがとうございます。」
「田中も奥さまも日本酒がお好きということで、灘の地酒をお持ちしました。」
「すまんな。気を使わせて。美味しくいただくよ。もう一つ持っているその大きな袋に入った箱みたいなものは?」
「これはゆうとくんへのおみやげなんだ、後で渡すよ。」
ゆうととは、田中の小学2年生の息子である。
「そうか。ありがとう。今日は初めて人を招待するんで、同期で仲の良い池手名、池田、黒田の三人にきてほしくてな。同じ同期でも、営業の連中だとどうしても仕事の話になるからな。」
池田と黒田というのはいぞう、田中の同期である。いぞう、池田、黒田ともにSEだが、田中は営業である。
「池田と黒田、プログラムの不具合対応で出社してて、終わり次第きてくれるらしい。池手名、お前は大丈夫だったのか?」
「あいつらは根っからの仕事人間で、まったく遊び心がないんだよ。本当にできる男というのは休みの時間を大切にする。だから、僕は絶対に休みの日は職場に行かない。ONとOFFの切り替えは大切だからね。休みの日、しっかりOFFにしているからこそ、ONにしたとき、良い仕事ができるんだよ。違うかい?」
「その通りだと思う。」
「池手名さんって、どこか卓越してらっしゃいますよね。」
「いえ、そんなことないですよ。当然のことなんで、あいつらにも言ってるんですがね。」
今、まさに休みを返上し不具合対応で頑張っている池田と黒田。この不具合の原因を作っているのは、実はいぞうのプログラムである。今頃原因がわかり、腸が煮えくりかえってるに違いない。
「池田と黒田、もうしばらく来れないかもしれないんで、始めようか。」
今日は田中家がもてなしてくれるということだった。
「そうだな。そうしよう。土曜日の昼から美味しい料理でお酒が飲めるなんて、本当に幸せだ。」
自分のプログラムで不具合を引き起こし、何の罪もない二人を働かせておいて酷い男である。
「準備しますね。ゆうと、お手伝いしてねー。」
そうして、宴会準備がはじまった。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「何か手伝おうか?」
いぞうが腰を上げようとする。
「いや、ゆっくりしててくれ。」
田中と田中の妻がキッチンとリビングを往復し、せっせと準備してくれている。
「おじさん、お魚みてー!」
「そうそう、この前言ったけど、ゆうとが熱帯魚をほしがってね。飼いだしたんだよ。生き物を育てていると勉強になることが多いから、ゆうとにとっていいことだと思ってね。」
「熱帯魚の話、覚えてたよ。生き物を育てるということは、勉強になるからね。僕も今日、ゆうとくんに生き物を通じて教えてあげたいことがあってね。お土産に熱帯魚を持ってきたんだ。」
「ほんとに!やったー!!」
「ありがとうございます。よかったねー。ゆうと。」
「うん!!」
「池手名悪いな。ありがとう。あ、すまん。氷がなかった。池手名はウイスキーだったな。ちょっと氷を買ってくる。ゆっくり魚を見ててくれ。」
「大方の準備終わったから早く戻ってきてね。あなたが戻ってきてから始めるわ。」
「ああ」
田中が氷を買いに出ていった。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「おじさんこっちだよー!」
広めのリビングで、対面式になっているキッチンの向かいにダイニングテーブル。そして、その反対側の奥に熱帯魚の水槽が置かれていた。
「これだよー!」
1メートル四方程度の水槽に、きれいな熱帯魚達が戯れるように泳いでいた。
「キレイだねー。お魚達も楽しそうだ。」
「うん!!毎日元気に泳いでくれるんだよ。」
「ごはんもゆうとくんがあげるのかい?」
「そうだよー。今あげてみる。みててね。」
ゆうとが魚たちに餌をあげると、一斉に魚たちが群がってくる。
「みんな仲良く食べてねー。あー!またあいつがいっぱい食べてる!!」
見ると、少し大きめの魚が他の魚よりもあきらかに多く餌を食べていた。
「あいつがいっぱい食べるから、いつもちっちゃいやつがそんなに食べれないんだよ。」
「ゆうとくん、あの小さい魚達を見て可哀そうだと思うかい?」
「うん。だっていつもちょっとしか食べれないんだよ。」
「なるほど。でもね、あの大きな魚が悪いわけじゃないんだよ。」
「どういうこと?」
「小さな魚が餌を食べれないのは、大きな魚より弱いからだ。強い方が勝つんだよ。これはね、自然の法則なんだ。そして、強い方が勝つという法則は、この水槽の中だけじゃない。ゆうとくんやおじさんが生きてる、人間の世界にもあてはまるんだよ。」
「そうなの?」
「そう。少し難しいかもしれないけど、世の中には強者と弱者しかいない。必ずどちらかに分類されるんだ。そして、強者は勝ち続け、弱者は負け続ける。今までも、これからもね。」
「うーん。。よくわからない。」
「言葉では難しいんだ。今から見せよう。強者と弱者がよく理解できるはずだ。いいかい、水槽から目を離すんじゃないよ。」
「わかった!」
そして、持ってきた魚を熱帯魚の水槽の中に入れる。
バシャバシャッ!! バシャッバシャッ!!
大きな音を立て魚が水面下へ潜っていく。。。
「え?おじさん!おじさーん!!食べられてる!僕のお魚食べられちゃってるよ!!」
「目を離したらダメだ!しっかり見るんだ。いいかい、負けるというのはこういうことなんだ。弱者になったらこうなるんだよ。食うか、食われるかだ。」
「うわーん!うわあーーん!!ママーー!マーーマーー!!うわああん」
「泣いたらダメだ!しっかりこの光景を目に焼き付けるんだ!いいかい、今、目の前で・・・」
「どうしたのゆうと!!」
血相を変えて母親が水槽の方へやってくる。
「ママ?!おさかながー、おざがながあああ」
「お魚がどうし・・・」
妻が水槽を見る。そこには、所狭しと暴れ回るピラニアの姿があった。
「ちょっと!なによこれ!!」
「おじさんがあああああ」
「なんで熱帯魚の水槽にピラニア入れるんですか!!」
「いや、ピラニアも熱帯魚と言えば熱帯魚なわけで・・・」
「ジャンルが違いすぎるでしょーが!!しかもそれ、ノーマルのやつじゃないでしょ!何か、より強そうに見えるんですけど!!早く出してください!!」
「これはブラックピラニアと言いまして、一般的なのはピラニア・ナッテリーと・・・」
「知らないです!いいから早く出してください!!」
「今、強者と弱者について教えておりまして、まだ途中で・・・」
「なんですかそれは!ああ、もう半分くらい食べられてる!!おい!おっさん!!早くそのアマゾン出身の逞しそうなやつ水槽からだせよ!!」
妻の言葉使いが荒くなってくる。
「小さい熱帯魚達の反撃が始まるかもしれませんよ。」
「始まんねーよ!バカかテメー!ああ、ヒーターのケーブル噛みちぎられてんじゃねーか!おい!早くその淡水のギャング外出せよ!!」
「ママ!!まーーまああああ!おざがなあああああ」
「おい!おっさん!早く出せって言ってんだよ!!おい!!目ぇ閉じて考え込んでんじゃねーよ!!おい!聞いてんのかよ!おい!!おっさん!!おっさん!!!!」
「おーざーがーなーあああああ」
彼の名は、「池手名 伊三」
分類先は、もちろん弱者である。
うっとしいおっさん、「池手名伊三」の第三弾を書いてみました。前回同様、こんなおっさんおったら、ほんまにうっとしいやろなぁと思いながら書きました(笑)
このシリーズはすべてそうなのですが、内容ないです(笑)
でも、そんな内容のない話に最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。