第十九回目 リサーチ
第十九回目だ。
今回はリサーチについて書こうと思う。
今の時代は、とても恵まれている。インターネットで検索すれば、たいていのことは調べられる。だからこそ、リサーチ不足は言い訳にできない。しっかりと調べる必要がある。
まず、あなたは、主人公を含め、登場人物の名前を検索しているだろうか?
テキトウに考えた名前が、実は犯罪者の名前だったり、芸能人の名前だったりすることもある。もし、歴史上に同じ名前の人がいたら、自分の知らないところで、歴史上の人物のイメージを主人公につけられてしまうかもしれない。
私もテキトウに考えた主人公の名前が、実在した軍人の名前と一緒で、途中で名前を変更したことがある。アンビリーバボー。
あと注意してほしいのが、方言やスラング、ジェスチャー、それに花言葉だ。
恋愛小説を書いていて、ただキレイだという理由で作中に登場させた花の花言葉が、『心変わり』だったらどうする? ちなみにアスクレピアスの花言葉が『心変わり』だ。
ジェスチャーも危険だ。何気ない主人公の行動が、別な意味でとられることもある。たとえば、相手に手の甲を向けてピースサインをしたら、海外では侮辱行為になる。OKサインも国によっては侮辱の意味になるし、親指を立てるグッドサインも、国によっては侮辱になる。
作者が「ただカッコいいから」という理由で描いたポーズが、読む人を傷つけているかもしれない。
意外と盲点なのが方言だ。テキトウに書いた言葉が、実はどこかの方言だったりすることもある。別の意味で解釈されてしまう危険性がある。たとえば私の地元では、疲れたりしんどいときに「こわい」という方言を使う。「恐怖」とはまた違った意味だ。
あとは、辞書に載っている定義以外の意味を含んだ言葉もあるし、特定の人たちの間だけで通用するスラングなんかもある。二丁目界隈では「タチ」とか「ネコ」という言葉に性的な意味合いが含まれていたりする。
装飾品もいろんな意味をはらんでいる場合が多い。左手の薬指に指輪をはめていれば「結婚している」のサインだし、黒のネクタイを締めれば冠婚葬祭のどれなのかがわかる。
たとえば、主人公は黒が好きという設定があるので、黒のネクタイを着けさせる。作者からしたら、それは、ただのファッションかもしれないが、人によっては「喪」をイメージするかもしれない。そこで、作者と読者の間に「ズレ」が生まれてしまう。
シンボルというのもある。絵画(特に宗教画)にはシンボルがあふれている。本や杯や枝やコインやリンゴやらに、いろんな意味が含まれていたりする(ここら辺はちょっと、資料が実家にあるので、詳しく書けないのが残念だ!)。
わかりやすい例で言えば、ハト。ハトは平和のシンボルだ。公園のシーンを描こうとして、特に意味もなくハトを登場させる。作者にとってはただの情景描写だが、人によっては『平和』をイメージしてしまう。ここでも、作者と読者の間に「ズレ」が生まれてしまう。
連想というものもある。赤は血を連想させるし、四という数字は死を連想させる。
日にちにも意味がある。6月6日は「カエルの日」らしい。ケロ(6)ケロ(6)の語呂合わせらしい。
……私が思いつくだけでも、こんなにも気をつけなければいけないことがある。リサーチしなければいけないことがたくさんある。
いいかい。良く聞いてほしい。君が扱っているのは、『活字』という化け物だ。
『活字』には、数多の意味が詰め込まれているし、『活字』は常に変化している。
まさに、活きているんだ!
活字を安易に使ってはいけないよ。あなたは知らず知らずのうちに、『活字』を使って誰かを傷つける恐れがある。知らないうちに、誰かを侮辱する恐れがある。あなたが伝えたかった意味とは別の意味が相手に伝わってしまう危険性がある。
活字は、いや、言葉は、恐ろしいんだ。
言葉を使う人や、タイミングや、環境や、順番や、時代や、宗教や、人種や、性別なんかが違うだけで、言葉の意味や感触や印象や色や、全てが変わってしまうんだ。
あなたは、作者になるのだから、責任を持って、リサーチしなければいけない。自分が書く、一字一句に、責任を持たなければならない。それができないのなら、小説家になる資格はない。
リサーチすることは、作者の義務だ。
第十九回目まとめ
「言葉は怖い」




