第五十話 勝敗の真相
「大輔!!!」
涼子の叫び声が木霊する。
決着がついて大輔の意識は確かに身体に戻った。
だが、いつまでたっても目を覚まさない。彼女は大輔の身体を揺すって起こそうとする。
それに気付いたクレメンスが駆け寄り彼女を止めた。
頭を打ったわけではないが、下手に動かすのは危険と判断したのだ。
クレメンスは大声で医者を呼び、駆け付けた医者が診断をする。
身体には全く異常はない。
ただ、あの激闘だ。精神に何らかの傷を負っているかもしれない。
その所為で目が覚めないのではと医者は診断を下した。
その後もいろいろと治療や魔法が施されたのだが、結局、彼の意識が戻ることはなかった。
って、死んでないよ。
激闘の末に眠っていただけだ。
意外にタフだったらしく精神的にも肉体的にも悪いところはない。
どちらかというと伸治のあんな姿を見たみな実や絢奈の方がトラウマになったのではないだろうか?
涼子はどうだって?
あいつがあれしきのことでどうこうするとは思えない。
実際にあれくらいの拷問を自分でやっていると聞いても疑問すら抱かないだろう。
そんなことを考えているなんて絶対に本人には言わないけど……
大輔が目を覚ましたのは自室のベッドの上だった。
自室と言っても日本のではなく、異世界の城にある部屋だが。
「三日も寝ていたのか?」
「はいそうです。もうこのまま目を覚まさないのではないかと皆様心配されていましたよ」
大輔付きのメイドはそう言うと慌てて部屋から出ていった。
その後、目が覚めたと報せを聞いてやってきた医者が診察してくれた。
その時、異常なしと告げられてホッと息を吐いたのはここだけの話。
その後に来たクレメンスにはこってり絞られた。
事前に注意を受けていたのにあそこまでやってしまったのだ。
大輔はクレメンスのお小言を素直に受け入れる。
そして
コンコン
一通り見舞い客が訪れて静けさがやって来た部屋に控えめなノックの音が響いた。
「どうぞ」
だが、反応はない。
多分、入り辛いのだろう。大輔にはそこにいる人間がわかっていた。
だから
「伸治だろ。入って来いよ」
そう言ってドアを開ける。
彼は捨てられた子犬のように泣きそうな顔でそこに立っていた。
大輔が無言でベッドに戻ると少し躊躇した後に伸治はついてきた。
大輔がベッドに寝転がり天井を見ている。
伸治はベッドの脇に立ったまま何も言わない。
「で、オレに何かいう事でもあるのか?」
「………」
大輔が水を向けてみるが伸治は俯いたままだ。
大輔は盛大に溜息を吐く。
「どうやら正気に戻ったみたいだな」
そう言うと伸治が顔を上げる。
「やり過ぎだったって自覚してるんだろう? 決闘前のお前だったらそんなことを思わなかっただろうから」
「ごめん」
聞き取れないくらいの小さな声でそう呟く。
「オレは別に気にしてないよ。まあ、痛かったけど。痛かったけどな」
「二度も言わなくていいよ。やっぱりきにしてんだろ」
「うるせえ、マジで痛かったんだからな。恨み言ぐらい言わせろよ」
そう怒鳴りつけるとしゅんとする、伸治。
そんな姿を見て思わず大輔は吹き出してしまった。
そして、笑い続ける大輔を見て伸治は唖然とし、そして最後には彼も笑っていた。
一通り笑ったあと大輔がぼそりと
「だけど、お前が死ぬより、よっぽどましだからな」
「大輔」
伸治の目には涙が浮かんでいた。
大輔はそれに気付かない振りをして話を続ける。
「それで勝負の件だけど、オレが勝ったでいいんだよな」
「ああ、オレの完敗だ」
伸治はすっきりとした顔でそう言った。
決闘の勝者は大輔だった。
伸治の最後の一撃は剣戟に光属性の魔法を込めた複合技。
そう魔法と剣の複合攻撃なのである。
剣戟は今の大輔の知識では反射できない。
ただ魔法部分は違う。
涼子が使ったリフレクトシールドで撥ね返すことが出来るのだ。
ただ、ここで問題が一つある。
伸治も光属性の付与が出来ることだ。
光属性特大の状態の伸治に光属性の魔法をぶつけてもダメージは与えられない。
だから、リフレクトシールドにもう一つ効果をもたせた魔法を開発した。
属性反転の効果を
本当に読書家スキルはチートだった。
魔法も魔導具と一緒で魔法文字が重要な役割を果たしている。
魔法文字は魔力を流されることによりその文字が意味する効果を現実のものとする。
高度な魔法ではこの魔法文字を唱えたり、魔力で直接、魔法文字を書いて行使する。
そう魔法は特殊な文字で形成される文章なのだ
だから、使いたい事象を生み出す単語と正しい構文さえ掴めば新しい魔法を作ることも難しくはない。
それで大輔が作り出した魔法が属性反転反射魔法だ。
もう二度と使うことはないだろうから名前など付けていないけど。
大輔の最後の切り札はこれだった。
というか、これ以外に伸治を倒す方法を大輔は持っていなかった。
多分、伸治がシャイニングスラッシュを使わなければ負けていたのは時間制限のあった大輔だっただろう。
だが、大輔には伸治が決め技を使うことを確信していた。
外れて欲しいとも思っていたが……
「それでお前は負けたんだ。これからどうするつもりなんだ」
「それは……」
伸治は真剣な目で真っ直ぐこちらを見ていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
これからも宜しくお願いします。