第四十九話 大輔のターン 不屈、そして、決着
あんなカッコいいことを言っておいて大輔は地べたを舐めていた。
何度、殴られたかはわからない。
というか、思い出したくない。
でも、大輔は立っていた。
大輔がなぜここまでしてこの場に立っているのか自分でもわかっていない。
見ていられないのか、みな実と絢奈は視線を背けていた。
それほど一方的な虐待だった。
もう、戦いではなくただの暴力となっている。
唯一の救いはダメージがないことだ。
が、もう既にそんなことは意味をなさない。
これだけやられたら普通の人間はきっと根を上げている。
そんな中、
『以外にオレってMっ気があったのかな? 自分ではSだと思ってたのに』
そんなどうでも良いことを考えていた。
「いい加減に降参したらどうだ!」
伸治の苛立ちの声が響く。
いや、あれは腹を立てているというより、戸惑いや怯えに近いのかもしれない。
伸治は呼吸を荒くしている。
肉体的にはこれぐらいの動きで息が切れることはない。
だが、精神的に追い詰められているのだろう。。
大輔はそれを見て口角を吊り上げる。
「オレも出来れば降参したいんだけどなあ。でも、ダメージを受けないんでどうしようもない。痛みももうあまり感じないし、恐怖も、もう麻痺してきてるしな」
お道化て見せるのは単なる強がりだ。
もう身体には恐怖が刷り込まれている。
伸治がピクリと動くだけで逃げ出しそうになる。
そんな身体を今は魔法で固めて平気なふりをしている。
多分、一発殴って。降参するかどうか確認して、また殴るみたいなことをされていたら大輔はすぐに降参していただろう。
だが、伸治は最初の攻撃でこちらが降参しなかったのに腹を立てたのか
声を発する猶予もない連続攻撃を繰り出してきた。
大輔はボロ雑巾のようになり今に至ると言う訳だ。
だが、それが結果的に功を奏した。
人間、恐怖も痛みも一定値を超えると麻痺してしまうものなのかもしれない。
既に脳が伸治の攻撃を認識することを拒んでいるようだ。
これも防衛本能の一つかもしれない。
いくら攻撃を受けてもダメージを受けないこともあって脳も身体も完全に混乱していた。
大輔の意識は痛みも恐怖も感じていない。
身体はたまに拒絶反応を起こすがそれを意識で無理矢理捩じり伏せることに成功している。
その内、これが気持ちよくなって来ないかが心配だ。
いけない趣味に目覚めないことを祈るしかない。
そして、大輔はまた宙に舞った。
落下してきたところをボールのように頭を蹴り上げられる。
ここまでくると伸治の攻撃にも容赦はない。
そろそろかな。
大輔はそんなことを冷静に考えていた。
まあ、格好つけて言ってみたものの実際は伸治が速すぎて仕掛けるタイミングが全く掴めなかったのだが……
だが、今は違う。
いくら殴っても蹴っても諦めない大輔に伸治は怯えだしている。
攻撃は雑になり、力任せに殴る蹴るだけだ。
いくらスピードがあっても予測がつく。
大輔が立ち上がると伸治は顔を歪めて叫んだ。
「もういい加減にしろ。これで終わりにしてやる」
伸治の構える剣が光に染まっていく。
彼が持つ最大威力の攻撃。
光属性勇者固有技『シャイニングスラッシュ』
渾身の剣戟に光属性の上級魔法を乗せた魔法と剣の複合攻撃。
タダでさえステータスが跳ね上がっている覚醒状態。
その上、光属性付与で光属性攻撃はその効果を倍加させている。
その威力は通常の何十倍にもなっているだろう。
そう、その一撃はこの城すら消滅させかねない凄まじさだった。
大輔はそれを見て微かに笑った。
そして
「ぐわあああああああああ!」
場内を絶叫が包んだ。
そこに倒れたのは……
そして、彼は光の粒子となって消えていった。
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