第四十七話 大輔のターン 蹂躙
「はてさて、どうやって仕留めてやろうかな」
痛そうに手を振りながら間合いを取る、大輔。
その間も挑発することは忘れない。
本当に大輔は性格が悪い。
「ふざけんなよ。もうお前に攻撃する隙は与えない」
そう言って伸治が飛び出してくる。
頭に血が上っているのか周りが完全に見えていない。
熱血漢だが、彼は剣道の猛者だ。
熱くなりすぎることの弊害は知っているはずなのに。
実戦と試合では違うのかもしれないが、いつもの伸治だったらもっと冷静に場を見極められたはずだ。
そうこんな見え透いた罠にかかることなど
伸治が剣を振り上げる。
一瞬で間合いを詰めて、あとは振り下ろすだけで大輔に当たるだろう。
大輔はその素早い動きに対応できていない。
というか目で追うのが精一杯だった。
しかし、目で追えるだけで十分なのだ。
「おわあああああ」
悲鳴を上げたのは大輔ではなく伸治だった。
最後の踏み込んだ先に魔法陣が現れて伸治を弾き飛ばす。
足が着く寸前に地面が弾けたのだ。
威力はそれほど高くないが、接地寸前に足場が爆発したら踏ん張れるわけがない。
伸治は何とか態勢を整えようとしていたが……。
「これだけで終わると思うなよ」
伸治の周りには無数の火球が出現していた。
遅延詠唱。
既に呪文を唱え終え、待機状態にしていた魔法を発動したのだ。
かなりの高等技術で大輔が持っている切り札の一つである。
突然、出現した無数の火球に囲まれて伸治は態勢を立て直すのをあきらめた。
素早く横っ飛び。
ゴロゴロと転がりながら火球の方位から逃れようとしたが、いくら身体能力が高くても逃げられるものではない。
無数の火球が伸治に殺到し、爆炎を上げる。
炎と土埃で視界が遮られた。
普通ならこれで大輔の勝利なのだが、油断はしない。
大輔は燃え盛る炎を睨み付ける。
そして、炎の中から伸治が飛び出してきた。
何のためらいもなく大輔は一刀のもとに切り伏せられる。
大輔の身体は左肩から斜めに真っ二つに
「って、いつまでも同じところにいると思うなよ」
真っ二つにされた大輔の身体が揺らぐ。
幻影魔法だ。
本物の大輔は既に伸治の後ろに回り込んでいる。
ロッドを伸治の背中に突き立てて、ゼロ距離から
「ライトニングボルト」
雷属性上級魔法『ライトニングボルト』
大輔が使える最大威力の攻撃魔法だ。
大輔は魔法を発動した後、素早く後ろに下がる。
別に勝利を確信したわけではない。
追撃を恐れたのだ。
案の定
大輔が今までいた位置に剣閃が走る。
ライトニングボルトを喰らって身体中が痺れて動けないはずなのにそれを気力で抑え込んだ一撃。
いつもの伸治の一撃から比べればスピードも鋭さも数段劣るものだが、大輔を殺すには十分な威力があった。
「やっぱり、チートは卑怯だよ」
大輔は肩を竦めて溜め息交じりにそう言った。
少し言葉が震えていたのは仕方がないだろう。
大輔は伸治の状態を観察する。
伸治の鎧は煤まみれになっており一部が溶解している。
地肌が見える部分は焼けただれ重度の火傷を負っているのだろう。
それに先程のライトニングボルトが聞いているのか、身体がビクビクと痙攣している。
鑑定で確認すると火傷と麻痺の状態異常を追っていた。
だが、そんことで大輔は気を緩めない。
彼の目を見て大輔は気合いを入れ直す。
あいつはまだあきらめていないのだ。
伸治は闘志というより憎悪に近いギラギラとした目付きでこちらを睨んでいる。
大輔は内心を悟らせないように軽く微笑んで見せる。
しかし、動揺を完全に押し隠せたわけではない。
無意識に軽く唾を飲み込んでしまったことに気付いていた。
現状、大輔の計算通りに進んでいる。
というか、上手く行きすぎているくらいだ。
だが、これだけ攻め立てて、大輔が持つ最大の攻撃魔法を絶好のタイミングで放ったのに倒せなかった。
これは非常にまずい状況だ。
奴を倒す手段がない。
このまま、ダメージを蓄積させていけば勝てそうだが、そんなに手数も残っていない。
それにこんな綱渡りがいつまでも上手く行く訳がないのだ。
いままでもはっきり言って紙一重でこちらに軍配が上がっていたにすぎない。
一度でも相手に主導権が移れば、ステータスの差でそのまま押し切られてしまうだろう。
伸治のダメージを見るとHPが三分の一以下まで減少していた。
だが、倒せなかったら意味がないのだ。
一応、涼子の魔法の効果がある内はこちらはダメージを受けない。
だが、それは一方的なアドバンテージにはならないのだ。
攻撃は受ければ軽減されるといいっても全く痛くないわけだし、なんといっても怖い。
暴力とは無縁の生活してきた大輔の心を折ることはさほど難しいことではない。
大輔はそのことを自覚している。
だから、油断はしない。
しかし、大輔は慎重になり過ぎて勝機を逃していたのかもしれない。
その証拠に
「覚醒解放!!!!」
伸治の声が響き渡った。
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