第四十六話 決闘中 大輔のターン開始
「なっ」
涼子の降参の表明に伸治は絶句していた。
それはそうだ。ここで涼子が降参する意味がない。
絶対的優位を自ら捨てるような真似をするなんて理解できないだろう。
そして、戸惑いはすぐに怒りに変わった。
「ふざけんな! 4体2の次は一騎打ちだと。どこまでオレをコケにすれば気が済むんだ」
「別にお前を舐めたことなんて一度もねえよ。4対2を受けたのはチートを貰って何でもできるような気になっているあいつ等に警告するためだ。あの三人は今回の件で自分の力を見直してオレの言ったことをもう一度よく考えてくれるだろう」
そこで大輔は一度、言葉を切る。
そして、キッと伸治を睨みつけた。
「だけど、お前は違う。例え2体1で勝っても納得しないだろ。だから、お前との決着は最初から一騎打ちでって決めてたんだ」
大輔の宣言に伸治は歯軋りをしていた。
「お前。一騎打ちでオレに勝てるつもりなのか?」
大輔は大きく溜息を吐く。
「日本にいた時のお前には絶対に勝てなかっただろうな。でも、今のお前になら負ける気がしない」
「ふざけんな!」
「ふざけてるわけねえだろ! チート能力を貰って調子こいてるだけならいいけど、何を焦ってるんだよ。見てて見苦しいわ! お前、いったい何に怯えてるんだよ。お前が怯えるような物なんてどこにもねえよ」
「うるさい。うるさい。うるさい! お前の言う事なんて聞かない。オレはお前を圧倒してお前よりすごいことを見せつけるんだ」
激しく睨み付けてくる伸治。
「ああ、そうかよ」
そう言うと大輔はそっと視線をずらした。
伸治は無意識にその視線を追ってしまう。
「隙だらけだぞ」
それが開戦の合図だった。
大輔は腰につけたポーチから球を取り出して放り投げる。
その球は伸治の方に向かい、彼が剣で迎撃する前に弾けて光を放った。
「うわ!」
咄嗟に目をかばうがそんなことをしても意味はないだろう。
閃光弾。
殺傷能力は全くないがその光は視力を奪う。
本当はスタングレーネードのように爆音を出せればもっと良かったのだが、そう言う物はこの短時間で用意することも作ることも出来なかった。
と言う訳で隠密発動。
視力を奪って、気配も断つ。
これで伸治はこちらの存在を完全に見失ったはず。
その隙に背後に回り込んで……
なんてことをすると思っているのだろう。
伸治は後ろから首を掻ききられるのを恐れて剣と盾で防御姿勢をとる。
しかし、大輔はそんな判り易いことをするはずがない。
隠密スキルを使っただけでその場から一歩も動いていなかった。
大輔は真っ直ぐにがら空きの首めがけて突きかかる。
だが……
「痛う! 攻撃した方が痛いってどういう事だよ。だから、チートは嫌なんだ」
手首を軽く押さえながらそう呟く、大輔。
構えを取ってはいるものの伸治も首を思いっきり突かれて苦しそうにしていた。
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