第四十三話 決闘開始、まずは涼子のターン
「あんた、あそこでさらに煽るって鬼畜ね」
涼子が鼻で笑っていた。多分、冗談のつもりなのだろうが、全然、冗談になっていない。
大輔は肩を竦めるだけで魔法陣の上に乗る。
しばらくすると、準備が整ったのか魔法陣が光りだした。
…………
「これはすごいなあ」
気付いた時には闘技場の中央に来ていた。
大輔は自分の掌を見て、その後、グー、パーと動かして身体の感覚を確かめる。これが自分の身体じゃないとは信じられない。
大輔は魔法陣の方に振り返った。
そこには確かに大輔の身体が存在した。
現在は分身体の方に意識だけが飛ばされている状態らしい。
何とも奇妙な現象だ。気持ち悪さを感じるが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
大輔は軽く気合いを入れ直して一定の距離を離れて伸治たちと対峙する。
向こうも準備が整ったのかこちらを睨んでいた。
ただ、伸治と絢奈は気合いが空回りしており、みな実と西郷はまだ戸惑っているようだ。
これは好機かな? と思ったが、油断はしない。
戸惑っていると言っても脳筋の二人だ。決闘が始まればすべてを忘れて戦いに集中することだろう。
一流アスリートの切り替えの早さを見縊るような真似はしない。
あくまでこちらが格下なのだから、多少、メンタルで優位に立とうと関係ない。
大輔は大きく深呼吸をした。
そして、涼子とアイコンタクトをする。
「それでは決闘を始めます。――始め!」
クレメンスは掛け声とともに闘技場から下がっていく。
涼子は合図と同時に魔法の詠唱に入った。
それを見た西郷とみな実はその場で構えを取り、絢奈も魔法の詠唱に入る。
絢奈が詠唱を必要とするということはかなりの大規模魔法を使うと言いうことだ。
大丈夫と思っていても大輔は息をのんだ。
そこに――
伸治が剣を一閃させた。
開始と同時にこちらに突っ込んできていたのだ。それは読めていたので大輔は十分備えていた。
だが、伸治の攻撃は大輔の予測を軽く凌駕していたのだ。
大輔の分身体は真っ二つに切り裂かれ、光の粒子となって消えていく。
あまりにもあっけない勝負の結末に伸治は今起こったことが信じられないようだ。
「伸治! 油断するな!」
そこに西郷の怒号が振ってくる。
伸治は振り向きざま剣を翳して後ろから突き立てられるナイフを防いだ。
カラーんと渇いた音を立ててナイフが地面に転がっていく。
「まあ、無理だわな。こんな不意打ちで終わるとも思ってなかったし」
そう言いながら大輔は距離を取った。
「あれは?」
「ああ、あれ。あれは幻影魔法だよ。涼子が魔法の詠唱を始めた一瞬、視線が外れたから、その隙に自分の幻影を作り出したんだ。あとは、俺自身にも幻影魔法を使って姿を消して、涼子の影に隠れたってわけ。この分身体事体が幻影のようなものだからな。分身体を切ったのか、幻影切ったのか区別がつかないだろ。さて問題です。いましゃべっているオレは幻影でしょうか?」
お道化た調子で今起こったことを解説する。
伸治は忌々しそうにこちらを睨んでいた。
ただ、大輔の言葉に惑わされて慎重になったのか剣を構えてこちらの様子を伺っている。
ハイ、減点。
こちらの狙いは――
「ホーリーガード!」
「インフェルノ!」
涼子と絢奈の声が闘技場内を響き渡る。
そして、絢奈の魔法が涼子に襲い掛かった。
火系極大魔法『インフェルノ』
発動した瞬間、涼子を中心として何本もの炎の柱がとぐろを巻いて立ち昇った。
その効果範囲は半径5m。
発動してしまってからでは涼子のステータスくらいでは回避は不可能だ。
炎の柱はそれぞれが絡み合い標的を焼き尽くさんと暴れまわる。
炎にのまれた涼子と大輔の姿は影すら見えない。
そこにあるのは赤く燃え盛る炎のみ。
ただ、この空間で生きていられる人間など存在しないだろう。
二人とも超高温の中、一瞬で消し炭になったと思われる。
闘技場内はごうごうと炎が猛る音のみが支配していた。
そして、その炎は一分程、あたりを蹂躙してその姿を消した。
そこに残されていたのは……
「お前なあ。もう少し早く詠唱できないのか? マジでギリギリだったじゃねえか」
「うるさいわねえ。あんたこそ、時間稼ぎが仕事だったでしょ。なに絢奈に簡単に魔法撃たせてるのよ」
「鬼頭さんはお前の担当だろ」
「それは『ホーリーガード』が完成してからでしょ」
言い争いを始める無傷の二人。
それを四人は呆然として見ていた。
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