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第四十一話 根本的な問題


「それで作戦はこんな感じとして。オレ達、勝って大丈夫なのか?」


「あら、スゴイ自信ねぇ。本当に勝てると思ってるの?」


 そんなことを言いながらニヤニヤ笑いながらこちらを見てくる。

 本当にいやらしい性格をしている。


「思ってねぇよ。良くて三割くらいじゃないのか? でも、もし勝てたとして、それは、それで問題になるんじゃないのか?」


「じゃあ、負けた方が良いと思うわけ?」


 う~ん。それはそれで問題だと思う。


「ぶっちゃけ。あいつ、なんで、あんな不安定になってるの? 確かに異世界にいきなり呼び出されたら不安になるだろうけど。いつものあいつなら平気な顔して正義に邁進してたんじゃないのか?」


「まあ、あんたがいなければそうだったんでしょうね」


 涼子が盛大に溜息を吐いていた。

 大輔は意味がわからず首を傾げる。

 本当に何もわかってないのね。と前置きして涼子は話し始めた。


「伸治はわたしと違って別に天才でも何でもないわ。あいつは努力して今の能力を身につけたのよ」


 自分のことを平然と天才と言ってのける涼子に呆れながらも、彼女の言っていることが良くわからなくて大輔はさらに首を傾げる。

 そんな大輔を「ドン臭いわね」と批判しながら話を続ける。


「なんで伸治があんなに努力したかわかる?」


「そりゃ、涼子に負けたくなかったからだろう。あいつは涼子のことが昔から好きだからな。好きな女に勉強も運動も負けてたら男のプライドが傷付くだろ?」


「はあ、あんた本当に何にもわかってないのね。確かにわたしのことが好きだからってところも否定はしないけど、そんな物微々たるものよ」


 こいつ、伸治が自分に好意を寄せていることを何でもないことのように認めやがった。

 やっぱり、とんでもない女だなあ。

 それとももう二人は付き合ってるからこういうことを平気で言えるのか?


「あんたがわたしのことをどう思っているのか、よくわかったわ。ちなみに伸治とは付き合ってないから」


 こいつ、やっぱり心が読めるんじゃないのか。

 大輔が戦慄していると、またもや、涼子が盛大に溜息を吐いた。


「こいつあれだけ頭が回るのに、どうして他人の気持ちとか察することが出来ないのかしら。ホント脳を解剖してみたくなるわ」


 小声でボソリと呟いたのでよく聞き取れなかったのだが、『解剖』というワードだけははっきりと聞こえた。

 大輔はブルリと背筋を震わせる。


「はあ、あんたの思考回路が残念なのはよくわかったわ。だから、単刀直入に行ってあげる。伸治はあんたに嫉妬してるの。これほどまでに完璧人間であろうとしてるのも全部あんたの上に立つためにあんたに認められるためにやって来たことなのよ」


「はあ? 何言ってるんだよ」


 言ってる意味がわからない。

 小さい頃は確かに負けたり勝ったりと競い合ったが、小学校に上がるころには完全に伸治の方が上だった。

 嫉妬や劣等感を抱いていたのはあきらかに大輔の方だ。


 それに認める?


 伸治のことを誰よりも認めているのは身近で彼を見続けていた大輔だろう。

 素直にそう告げると


「そう言う表面的なことじゃないの。伸治もそれがわかってなかったから、ああいう努力の仕方をしてきたんだろうけどね。まあ、それに気付かなかったから問題はなかったんだけど……この世界に来て状況が変わってしまったから」


「変わったって、あいつは勇者でオレは読書家だよ。どう考えても向こうが上でしょ。なんであいつがオレに劣等感を抱くの?」


「そこよ。自分の方が圧倒的に優れた能力を与えられている。だけど、周りの信頼はあんたによっている」


「そんなことないだろう。王女様は伸治にご執心だし、王や騎士たちも勇者様、勇者様って伸治を慕っている」


「そうかなあ。じゃあ、クレメンスさんやビリーさんは?」


「え?」


 唐突な指摘に大輔は目を点にしていた。


「クレメンスさんとは話が合うだけだよ。それにビリー隊長はどちらかと言うと出来ないオレの世話を焼いているだけじゃないの?」


 ビリー隊長の話をするときにお尻がヒュンとしたのは気にしないことにした。

 うん。きっと気のせいだ。


「それはあんたの主観で伸治がどう感じているかは関係ないわ。それにあんたは実績まで作ってしまった」


 ダンジョンの脱出時のことか……


 やはり、あの多数決が尾を引くことになるのか

 大輔は頭を抱えたくなった。


「まあ。百歩譲って大輔がオレに嫉妬しているとしよう。だったら、オレが勝ったら逆効果なんじゃないのか?」


「勝っても負けても一緒よ。もし負けたら手を抜かれたんじゃないかと伸治は疑心暗鬼になるんじゃないかしら。そして、もっと努力してみんなの信頼を得ようと視野がどんどん狭くなっていく。平和な日本でなら問題ないけど、魔王と戦わないといけないのよ。そんな精神状態で無事でいられるほどこの世界は甘くないわ」


「そんなの八方ふさがりじゃないか」


「だから、真剣に戦う必要があるの。互いに向き合って実力を認め合うことが必要なの。勝敗は関係ない。あんたが逃げてちゃんと戦わないから、伸治がいまみたいになっちゃったんだよ。ちゃんと真正面から戦って負けて上げなさい」


「なんだよ。結局、オレが負ける前提なのかよ」


「あんたがわたしにカッコイイ所を見せてくれたことがあった?」


 ジトッとこちらを見ながらそんなことを言う、涼子。

 大輔は目を逸らして吐き捨てた


「まあ、努力するよ」


 どうなるかわからないが、ここまで言われて全力を出さないわけにはいかないだろう。

 大輔は盛大に溜息を吐くのであった


いつもお読みいただきありがとうございます。

これからも宜しくお願いします。

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