第三十九話 伸治の決断と説得
帰還の儀式の日程が決まった。五日後である。
そして、大輔達は玉座の間に集められていた。
儀式にはいろいろと準備がかかるのでここで帰るか決断してほしいという話だ。これを逃すと次に戻れるチャンスは三か月後になるらしい。
とうとうこの時が来たかとみんなは伸治に注目していた。
伸治は真っ直ぐな目で王に向かって宣言する。
「わたしは残りたいと思っています」
「伸治」
大輔は苦笑交じりで彼の名前を呼んでいた。
その他の面々は既に諦めているようで肩を竦めている。
「大輔。お前は戦闘能力がほとんどないから帰った方がいい。だけど、オレはこの世界に勇者として呼び出されたんだ。苦しんでいる人達を見捨てては帰れない」
何青臭いこと言ってんだ。と口から出そうになるが何とかそれは抑える。
この王都まで被害はないが、すでに国境付近や辺境では魔物の活動が活発になり被害が出始めている。 それに魔族が現れたという情報もよく聞かれるようになっていた。
この世界に危機が迫っていることは大輔にもわかる。
でも
「しょうがないわね。わたしも残ってあげるわ」
「魔物との闘いもなかなかスリルがあって楽しいし、オレも付き合うぞ」
「わたしも」
三人が残る方に手を上げた。
多分、伸治を一人だけ残すなんて決断は出来ないのだろう。
それにあれだけの力を得ているのだ。ヒーローを気取りたくなる気持ちも分かる。
だが、大輔にしてみればこいつらには危機意識が足りない。
いくら強くても死ぬときは死ぬのだ。
日本でも突然、車にひかれて死ぬことなんていくらでもある。
そして、彼等は魔物や魔族、はては魔王との戦いに身を置くことになる。
いくらチート能力を持っていても死ぬ確率は日本にいるより数段高いのだ。
だけど、大輔にはこいつ等を説得する材料が見つけられない。次第に場の空気は大輔が我が儘を言っているような物に変わってきた。
まあ、その通りなのだが
そんな時、涼子が一言
「この世界の人を助けたいとか、そんなヒーロー気取りなら帰った方が良いと思うわ。いまは敵がいないから気楽に構えているけどわたし達だって負けることはあるかもしれないのよ」
「そんなことはわかってる。覚悟はあるさ」
そう断言する伸治に涼子は苦笑する。
「そう、だったらこうしない。わたしと大輔と戦ってみる? わたし達が勝ったら帰れなんて言わない。ただ、負けて死ぬかもしれないというのを思い知ってからもう一度決断して欲しいの」
「大輔と二人がかりだからってオレに勝てると思ってるのか?」
伸治が涼子をにらみつける。
こんな顔を涼子に、いや、他人に向ける伸治を見たことがなかった。
いつもの伸治に戻ったと安心していたがどうやらそれは間違いだったようだ。
そんな伸治に涼子は不敵に笑って見せる。
「勝てるわよ。それに何言ってるの。わたし達が相手をするのはあなた達、四人よ」
その暴言にみんなは唖然としていた。
絢奈が頭に来たのか何か喚き散らしている。
流石のことに大輔は反論したかったが、涼子に抑えられて何も言えなかった。
結局、帰還の儀式の件については明日、決闘の後にもう一度、話し合われることになった。
いったい、なんでこんなことになったのだろう。
頭を抱えたくなる大輔だった。
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