第三十六話 探索再開
石碑の調査を一通り終えて少し休憩した後に大輔達は今後の方針について話し合っていた。
「まずはこれからどうするかですね」
「どうもこうもこのダンジョンを進むだけですよね?」
不思議そうに伸治がクレメンスに問いかける。
「いいえ、最優先なのはこのダンジョンの脱出です。ですから、引き返すという選択もあります」
「そうですね。僕は上に戻った方が良いと思います。このダンジョンはその名の通り勇者に試練を与えるための物でしょう。下に行くほど魔物は強くなることが予想されます。それにこのダンジョンが勇者を成長させるためにあるのなら無茶なことはさせないでしょう。脱出手段がダンジョン攻略以外ないとは考えにくい」
「でも、上に行っても無駄足に終わるかもしれないだろ?」
伸治が食い下がってくる。聞き分けのない伸治に大輔は苛立ってきた。
「そうかもしれないけど、危険は最小限に留めるべきだ。上を探索して脱出出来ればそれでいいし、もしなければ下に向かえばいいだろう」
「だったら先に下に向かえばいいじゃないか」
「下に脱出口が無かったら。それに実力が足りなくて涼子たちが死んだらどうするんだ」
「そんなことはさせない。みんなオレが守る」
「お前、勇者になって調子に乗ってるんじゃないのか。いまのお前に誰が守れるんだ!」
伸治が胸倉を掴んできた。大輔はそれに構わず伸治をにらみつける。
「やめてください。いまは内輪揉めをしている場合じゃありません。ここは全員で多数決をとります」
クレメンスが間に入って場を納めようとする。
だが、その多数決は悪手だ。
こういう所で多数決をとるとろくなことにならない。もし伸治が負けたらさらに意固地になるだろう。ここに来てから伸治はどこかおかしいのだ。
だけど、それを伝えることは出来なかった。
そして、多数決の結果、上に戻ることが決まった。
伸治に賛成したのは絢奈とみな実、西郷の三人だけだった。
気まずい雰囲気が漂っている。
それでも絢奈たちは探索に協力してくれたのは僥倖だろう。
道を戻り、階段を昇る。
飛ばされた位置にまでくると今度は逆側にすすんだ。
飛ばされてきたフロアにも魔物は出たが、タダのゴブリンだけだった。
しばらく進むと昇り階段があり、その先には広間とクリスタルが設置されていた。
大輔は一人でクリスタルの元に向かい。それを確認する。
『試練を断念し者、再度の来訪を期待する』
どうやら、ここから帰れるらしい。大輔はざっとクリスタルに刻まれている魔法文字を読み解く。先程みたいに弾かれてはたまらないので慎重にだ。
どうやら、これが転移装置で間違いないようだ。
転移を意味する魔法文字がある。
ただ、行き先まで調べようとするとさっきみたいに弾かれる恐れがあったのでそこまでは調べなかった。
大輔はクレメンス達を呼ぶ。
そして、まず初めに大輔が一人で転移魔法陣を起動させることにした。
まあ、この件も伸治がごねていたのだが、何とか涼子が説得してくれた。
転移された先は森の中のクリスタルの前だった。
ちゃんと『試練の祠』と刻まれているし、景色も見覚えがある。
飛ばされる前の場所で間違いないだろう。
まあ、違う場所でもダンジョンの中よりずいぶんマシである。
大輔はすぐにクリスタルを使ってダンジョンに戻った。
そして、みんなと合流してダンジョンから脱出するのだった。
ただ、気がかりなのは伸治が俯いてその後、何も語らなかったことだろう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今後もご期待ください。