第三十五話 石碑の謎
「ゲホ、ガハ、ゴホ」
壁に背中からぶつかりその衝撃で息が詰まっていた。頭を軽く打ったため、少しぼおっとしている。レベルアップしていなければ今ので死んでいたかもしれない。
突然のことに周囲のみんなが呆然としていた。
ただ、涼子だけは顔を真っ青にしながら駆け寄ってきて回復魔法をかけてくれる。
身体が暖かい光に包まれて何とも心地よい。
場違いなことだとは思うが、いつまでもこの光の中で微睡んでいたいとさえ思った。
痛みはすぐに引いてきた。
そして、頭を打って出血していたことに初めて気づいた。
涼子の手が大輔の血で汚れている。思ったより危ない状況だったみたいだ。
そんなことを他人事のように考えながら涼子にお礼を言う。
「ありがとう。助かった。もう大丈夫だよ」
そう言って立ち上がろうとするが足がもつれる。軽く立眩みがしていた。
「まだ動いたらダメよ。いまの魔法は緊急で傷をふさいだだけだから、ちょっと、じっとしていて」
そう言って上位魔法を唱え始める。
長い詠唱の後に彼女の掌から光が生まれる。そして、大輔は力が漲ってくるのを感じた。
「回復魔法ってすごいなあ。なんか、ここに来る前より体調が良くなっている気がする」
「もう、バカなこと言わないでよ。本当に心配したんだから」
いつもなら一発二発殴られているところだが、いつもの反応と違う涼子に戸惑いを覚える。涙目で責めるように睨まれては素直に謝るしかない。
そうこうしている内にクレメンス達も我を取り戻したのかこちらにやって来た。
「大輔さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ご心配かけました」
大輔の答えを聞くと、クレメンスはホッと一息を吐く。
そして、直ぐに表情を改めた。
「それで一体何が起こったのですか」
「この石碑にダンジョンの脱出手段がないか少し調べてたんです」
嘘は言っていない。
だが、クレメンスはこちらを疑わしそうな目でいる。
どうやら大輔の思惑はバレているようだ。
大輔は諦めて正直に話す。
「あと、読書スキルで石碑の仕組みがわからないか解読をしていました。ただ、どうやらプロテクトがかかっていたみたいですね。拒絶されたみたいです」
クレメンスはそんな大輔を関心半分、呆れ半分という顔で見ていた。
そして
「大輔さん。そう言う危険なことは止めてください。古の魔導具。アーティファクトと呼ばれるような神が作り出した物や古代の遺物にはプロテクトがかかっている物が多いのです。分解したり、解析しようとしたりすると爆発するようなものはよくあるのですよ」
そういう事は早く教えて欲しいなあなんて思っているとクレメンスが
「それで何かわかりましたか?」
「いいえ、何も」
そう答えたがクレメンスが額面通り今のセリフを受け取ってくれたとは思えない。
ただ、今はそれに対して何も言わなかった。
そんなクレメンスを怖いと思う反面、ありがたいと思いながらも大輔は一人いま垣間見たものについて思いをはせているのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。