第三十二話 ダンジョン探索再開
「おらあああ」
「やああ!」
「くらええええ」
伸治、みな実、西郷の気合いの声がダンジョンに響き渡る。
相手の数は七体。
その集団の中に三人は踊り込んだ。
前衛の盾と棍棒を構えた三体に西郷が突進!
一体がぐしゃりと嫌な音を上げながら後ろにいたゴブリンを巻き込みながら飛んでいく。既に突撃を受けた一体は即死しているだろう。首や手足が曲がってはいけない方に向いている。
みな実と伸治は前衛のゴブリンをすり抜け後ろに回り込む。
伸治は西郷に弾き飛ばされたゴブリンに巻き込まれて転がっている奴らに止めを刺していく。
そして、みな実はそんな中、一体だけ何とか態勢を崩されながらも踏ん張っている巨大なゴブリンに向かっていた。
ゴブリンキング。
身長2mを越えるコブリンの王だ。通常のコブリンの二倍近い体格を持ち、スピードも力も桁違い。魔法も武器も使いこなす化け物だ。難易度の低いダンジョンならボスとして最深部に構えているような魔物だ。
そんな魔物が突然の襲撃に怒りの咆哮を上げ
首が飛んでいた。
みな実が軽くとっび上がり横一閃。
態勢を崩されていたゴブリンキングに躱す術はなかった。
あまりにも早い振り抜きに盾も棍棒も突き出す余裕はなかった。
こうして戦闘は終了した。
ちなみに前衛二体は既に西郷に殴り倒されている。
こんな感じでダンジョン探索は順調だった。
出てくる魔物はあっという間に蹴散らされてしまう。後衛の絢奈と涼子は出番がなくて暇そうだ。時折、文句すら言っている。
そして、周りの騎士たちは唖然としていた。
「さすが勇者様たちですね」
コールマンは引きつった顔でそう言っていた。
それもそうだろう。ダンジョンに閉じ込められる前はステータスは同等でも動きは全くの素人集団だった。多分、戦えば勝てると思っていたのだろう。
それが物の二、三時間であっという間に追い抜かれてしまった。
今はステータスだけでなく、その動きも洗練されつつある。
まあ、それも大輔が当人たちの適性を教えてあげたから出来たことなのだが……
特に西郷の動きは見違えるほどだった。
鎧を脱がされ紙装甲になってしまったので最初は確かにおっかなびっくりという感じだった。だが、元々格闘技をやっていたからか、直ぐに慣れたみたいで今では真っ先に突進している。
このレベルの相手ならステータス任せの素早さと見切りのスキルで攻撃が当たらないことはわかっているのだが……
普通はビビッて動きが硬くなるんじゃないだろうか。凄い形相で迫ってくる魔物ははっきり言って恐ろしい。殺気だって半端ない。大輔には出来そうにないことだ。
まあ、相手が最弱の魔物であるゴブリンだと思っているからこんなことが出来るのかもしれないけどね。
ちなみに騎士団の面々はあれがただのゴブリンではないことに気付いている。
さっき出てきたゴブリンキングなんかは通常のゴブリンの二倍近い大きさなのだ。気付かない方がおかしいだろう。
ちなみにゴブリンキングはここにいる騎士全員でかかって倒せるかどうかというレベルだった。
う~ん。そろそろ魔物の正体について教えてあげた方が良いかもしれない。いままでの戦闘は順調そのもの。というより戦闘になっていないのだから。
というのも絢奈と西郷、みな実の索敵能力が半端ないのだ。
相手に気取られる前に敵を発見。奇襲をかけて殲滅。
これを繰り返している。
西郷は素手になって基礎の攻撃力は下がったが、スキルにより攻撃力が12倍になっている。もうはっきり言って出鱈目だ。
みな実に至っては王国最強の武器で基礎攻撃力を上げた上にスキルによって攻撃力が12倍になっている。多分、どんな魔物が出てきても一撃で倒せるのではないだろうか。
そんなの相手に奇襲で初手を譲らなければならない魔物たちの方が可哀想な気がする。
不意打ちを躱せなければそれでジエンドなのだから。
そんな中、伸治がまた不満をこぼしている。
「なんかタカやみな実の方が攻撃力が凄いような気がするんだけど、なんか不公平じゃない?」
「何言ってるんだよ。お前も全部一撃で倒しているだろう」
「でも、なんか威力が低い気がするんだよなあ」
ブツブツと文句を言っているが彼は本質を見抜いている。確かに彼が持っているのは剣技でみな実の2ランク下のスキルだ
剣技:剣を使う才能、剣技を覚えることが出来る。
剣による攻撃力増加(3+Lv×0.2倍)
ただ、こいつの剣技は既にレベル8で攻撃力が4.6倍になっている。はっきり言ってこれも破格の攻撃力だ。
多分、ゴブリンキングを一撃とはいかなくても二、三撃で倒すことが出来るだろう。
もう、なんだかいやになる。
と言う訳で訓練にならないので奇襲は禁止とした。
確か決死の脱出劇のはずだったのにこいつらがチートだったせいでただの戦闘訓練に成り下がっている。
そんな時だった。
「階段を見つけたわ。あと、魔物とは違う魔力反応が一つ。結構大きいわね」
絢奈が声を上げた。
大輔はクレメンスと視線を合わせる。そして、瞬時に合意した。
「魔力反応の方に向かいましょう」
罠かもしれないがここは行くべきだろう。
もしも石碑のようなものが有れば脱出できるかもしれないし、脱出は無理でも何らかのヒントを得られるかもしれない。
ただ、嫌な予感がするのは否めなかった。
そんな不安を抱きながらも魔力反応に向かって足を向ける面々だった。
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