第三十一話 探索を開始しようと思ったけど勇者がごねている
「てなところかな。みんな、自分の能力をしっかり把握してこれからの戦闘に役立てて欲しい」
そう言って締める、大輔。みんな自分のチート能力に驚いているが、それ以上に楽しみにしているようだ。約一名を除いて
「なあ、大輔。オレにも派手な能力とかないの? 必殺技とか?」
縋るような目で見てくる伸治に対して大きな溜め息を吐く大輔だった。
「もう、いい加減にしろよ。お前は万能型成長チートなの。いまでもステータス的な意味では一番強いんだよ。みんな特化型で強いように見えるけどその分、弱点とかあるんだから」
そうなのだ。西郷たちは強いが個別なら倒す方法はすぐに思いつく。
まず、西郷。こいつは魔法を弾くし、基本どんな攻撃も躱すことが出来る。だが、流石に広範囲攻撃には対抗できない。あいつを倒したければ罠にはめて逃げ道を潰した所に遠方からの範囲攻撃の波状攻撃で倒せる。
多分、中級クラスの魔法使いを50人も集めれば倒すことが出来るだろう。
多分、みな実にもこの手は有効だ。
次に絢奈だが、彼女なんかはもっと簡単だ。魔力を無効化するフィールドに追い込めばそれで詰みなのだ。
他にもスピード系の近接攻撃職を50人くらい突撃させれば多分倒せる。彼女に近接戦闘能力はないのだ。40人殺されても一人が届けばそれで勝ちである。
涼子に至っては問題にならない。
彼女には攻撃能力がほとんどないのだ。人数と時間を掛ければいくら大魔力持ちでもいつかは尽きる。十分に倒せるだろう。
ただ、伸治には死角はない。
すべての能力が高レベルでまとまっている。ただ、器用貧乏で終わる可能性もあるのだが……
まあ、そんなことは良いだろう。問題はこいつだ。大輔がいくら伸治の能力が凄いのか説明してやっても納得してくれんないのだ。
大輔は仕方なしにカードを一枚切った。伸治には教えていない能力が二つまだあるのだ。
「ああ、もう。しゃあねえからもう一つ教えてやるよ。お前が持つ職業勇者にはもう一つ特性があるんだ。それが戦闘スキルの取得補正(特大)だ」
「スキルの取得補正はみんなにもあるんじゃないのか」
「みんなにあるのは『大』でお前にあるのは『特大』だ。はあ、西郷ちょっと気を集めてくれ」
「かめ○め波か? おう、いくらでも撃つぞ」
喜々として構えをとる。日本の高校生くらいの男子ならかめ○め波が撃てることを知って浮かれるのは仕方がないのかもしれない。ただ、傍から見てるとウザくて仕方がない。羨ましくなんてないんだからね!
「もう、その名前を出すな。クレームが来たらどうすんだよ。ああ、ステータスのスキル欄にかめ○め波で登録されちゃったじゃないか。どうすんだよ」
苛立ちながら支離滅裂なことを言う大輔。
まあ、そんなどうでも良いことは置いておいて話を続ける。
「撃たなくていいから掌の上に気を集めて球にしてみてくれ」
「え? う~ん。こうか?」
掌を上にして突き出し『ウンウン』唸ってたかと思うと光る玉が浮かび上がった。
「おお、出来た」
自分でやって置きながらびっくりしている西郷は置いておくとして伸治に向き直る。
「これが気で作り出された玉だ。魔法を教えた時と同じ感覚でこれに似たのが身体の中にあるのがわかるだろう?」
そう大輔に言われた伸治が目を閉じている。
「ああ、わかる。それでこれを魔法の時みたいに手に集めればいいんだな」
そう言うと大きく深呼吸しながら構えをとった。
「か~め~○~め~波!!!!!!」
光線が掌から迸り壁に激突。壁の一部が大きく抉られ弾け飛んだ。
「おお、オレにも出来た」
「お前は戦闘系のスキルに限って常人の何十倍も習得がしやすいんだ。だから、人が使っている技をよく見てそれを練習すればすぐに身に着けられる。まあ、修行が必要なんだけど、お前はなんだって出来る可能性があるんだ」
「おお、そうだったのか。じゃあ、試しにもう一度。か~め~」
「やめんか!」
構えを取りもう一度、かめ○め波を放とうとする伸治の頭を思いっきり殴る。
「お前もその掛け声は止めろよ。一度や二度なら許して貰えるけど何度も使ってると怒られんだぞ」
「何言ってるんだ?」
首を傾げる伸治を見ていると……
「ああ、もうヤダ。お前のスキルにも生えてんじゃねえか。いい加減にしろよ」
大輔の嘆きは誰にも届かなかった。
ちなみに西郷が横で気弾を自由に操って遊んでいる。『繰○弾!』ってお前どんだけドラ○ンボールが好きなんだよ。ヤ○チャのマイナー技なんて普通知らないぞ。
こいつも殴ってやろうかと思ったが涼子が先に殴っていた。女の子がグーパンチはいけないと思います。
と言う訳で話はこれでお仕舞い。本格的に探索開始である。
もう探索前なのに大輔はくたくただった。
まあ、戦闘になんの役にも立たないので問題ないと言えば問題ないのだが……
それにしてもやっぱり伸治に教えなくて正解だと思っていた。
彼には切り札がある。
まあ、これを使うのは本当に最後の最後だろう。
多分、フラグなんだろうなあ。
そんなことを考えながら大輔は歩き出すのだった。
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