第二十九話 チートスキル 第一弾 西郷
「ちょっと休憩にしましょう」
クレメンスがそう言うとコールマン隊長を始め騎士たちが休息の準備に入る。
と言っても洞窟の中なので準備はほとんどない。
警戒の人員を通路の両端に配置するだけであとは各々その場に座り、水分補給や軽い食事を摂るくらいだ。
そして、大輔はというと伸治たちを集めた。
喜びを分かち合っている中、水を差されて絢奈と西郷が不機嫌そうにしていたが、そんなものは構わない。
もしもの為にこいつ等には伝えておかなくてはいけないことがあったからだ。
「いまは時間がないから手短に伝える。どうやらこのダンジョンは思っているよりも危険な場所らしい。多分、お前等も全力を出さないといけない時が来ると思う」
「何言ってるんだよ。出てきたのはゴブリンだったろう。最初は弱いモンスターしかいなくてだんだん強いのがでてくる。まあ、出口がどこにあるかわからないけど、強いのがいる所に行く前に出口が見つかるかもしれない。そうだろ?」
西郷がブツブツ文句を言ってくる。
楽観主義のバカなのか、不安を紛らわす為に言っているのか、分からないが、こんな奴のいうことを聞いていられない。
釘を刺す意味も込めて真実を話す。
「その弱い部類に入るのがさっきのゴブリンだ。タダのさっきのはゴブリンじゃない。ゴブリンの上位種だった。倒せたのは奇襲が成功したからで正面からぶつかったら苦戦しただろう」
大輔の言葉に誰かがゴクリと生唾を飲み込む音が重なった。
「なんでそんなことがわかるの?」
みな実が恐る恐る聞いてくる。
「オレのステータス鑑定はレベル5だ。相手のステータス値どころか職業や称号、スキルも見られる」
大輔の発言にみんなが息を飲む。
近接組でもステータス鑑定はレベル3だ。
それなのになんの才能も無い筈の大輔がレベル5だという。
そうやすやすと信じられることではない。
だが、今は信じてもらうしかない。
最低でも自分の身は自分で守って貰わないと困るのだから。
大輔は声を殺して真実を伝える。
「奴らの中に職業にヒーラーやナイトを持っている者がいた。ステータス値はお前らの方が上だけど戦闘経験の差を考えると危ないレベルだった。そんな奴がこんな序盤にいるんだ。これから下に言ったらどんな化け物が出てくるかわからない」
大輔の発言にクレメンスが何か言いたげな顔をしていたが口を閉ざしていた。
真実を知らせて怯えさせるのと警戒させるのを天秤にかけて大輔の考えを指示したのだろう。
そんな中、伸治が声を上げる。
「それでオレたちはどうすればいいんだ」
真剣な目でこちらを見てくる。
こいつにはもう少し人を疑うことを覚えて欲しいが今だけは助かった。
大輔はニヤリと笑いながら
「お前たちにチート能力の使い方を教える。それを駆使して何とかここから生きて帰ろう」
それから彼らにスキルの本当の能力を伝えていく。
王家に残る秘伝の書に伸治たちのスキルの説明もあったがどれも抽象的な物でしかなかった。
具体的にその効果を数値で表すような物でもなく。
使い方もあいまいで不足があった。
大輔はそこを詳しく説明していく。
「本当にオレのスキルってチート能力だったんだな」
西郷が呟く。
そんな西郷に
「と言う訳でお前はその重い鎧と大剣を渡せ。クレメンスさん。この装備は使えそうな騎士に渡してください」
「そんなことを言っても防具がないと不安じゃ――」
「なんだよ。ビビってんのか?」
大輔が挑発すると西郷はどもりながら反発した。
「び、びびってねえし。オレは元々空手家なんだから素手が専門なんだぞ。こんなの邪魔でしかなかったんだ」
そう言って脱ぎだした。
単純で助かる。
そんな西郷に追い打ち。
「盾もだぞ」
これくらいは良いだろと目で訴えてくるが大輔は許さない。
「ダメだ。お前は耐久力が高いけど一番の利点は素早さとスキル『見切り』なんだ」
見切り
あらゆる攻撃を感知し、軌道、威力を把握する。不意打ちや魔法も含まれる。
常時発動。習熟度によって意識的に感知範囲を変えられる。
西郷の持つチートスキルだ。
これに素早さが加われば大抵の攻撃は回避できる。
問題になるのは自動追尾系や広範囲攻撃くらいだ。
そう説明しても何も身に着けないのは不安なのだろう。
大輔は溜息を吐きながらもう一度説明する。
「それにその大楯を持っていると『格闘の頂』が発動しないんだ。盾は防具扱いだけど、シールドバッシュなどで攻撃にも使える。さっき確かめたけどその盾は武具判定に引っかかるんだよ」
格闘の頂きLv1
あらゆる格闘術を使える。HP、攻撃力増加(10+Lv倍)
武器未装備時発動
あらゆる格闘術
知識にある格闘術及び本人が想像出来て物理的、魔術的に実現可能なもの
つまり、格闘の頂を持っていると、やったことがなくてもテレビで見たことがあるような格闘技も使いこなせるわけだ。
それどころか想像できる格闘術も出来るわけでマンガで見たようなことも不可能ではない。
そう、かめ○め波とか、か○はめ波とか、○めはめ波とか。
本当にムカつくほど羨ましいスキルだ。
それを説明した時に半信半疑でやってみた、西郷。
本当にかめは○波が出た時のこいつの喜びようときたら……
マジムカつく。
こいつ埋めて帰ろうかとさえ思った。
「まずお前は見切りスキルを使いこなすことに集中しろ。範囲を絞れば精度が上がるし、広げれば精度が落ちるけど索敵に使える。そのあたりを練習するんだ」
「わかった」
こいつか○はめ波が撃ててから随分素直になったものだ。
現金な奴だと思う反面。
言うことを聞いてくれてホッとしている自分がいる。
と言う訳で次なのだが……
瞳をキラキラと輝かせてこちらを期待するように見るみな実と絢奈がいた。
体育会系女子のみな実はわかるんだけど、絢奈までこういうのに興味があるとは思わなかった。
大輔は大きな溜め息を吐きながらそんな二人に向き直るのだった。
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