第二十七話 初めて魔物に遭遇
「待ってください。鬼頭さん。下の階にも光魔法を」
「わかったわ。光よ」
杖を構えて叫ぶと暗闇に染まっていた階下が明るく照らされた。
さっきの話を聞くと暗いのは魔物に利するだけだ。
それに斥候担当の騎士のスキルを見たが索敵系のスキルがいくつかあるだけでそのスキルレベルはそう高くない。
それもダンジョンにはあまり関係ない物が多い。
一応、暗視スキルを持っているが、それはたったのLv1だ。
魔物より優れているとは思えない。
それは斥候担当も自覚していたのか彼らは礼を言って階段を下りていく。
そして、10分くらい待っていると彼らが戻ってきた。
「報告します」
クレメンスの前に立ち報告を始める騎士。
「下の階はいままでとは違い、いくつかの分岐が確認できました。あと、数体の魔物も」
「どのような魔物かわかりましたか」
「確認できたのはゴブリンが数体です。中には武器を持っている者がいました」
「上位種でしょうか?」
「断言はできませんが、大きさからゴブリンリーダーと思われます」
「それくらいなら問題はありませんね」
クレメンスは顎に手を当てしばし考える。
そして
「では階下の探索を開始します」
全員に前身の指示をだした。
大輔達は隊列を崩さずに先に進む。
曲がり角があるたびに斥候が確認に向かい合図を送って先に進む。
僅かに進むのにもなかなか時間がかかった。
そんな時だった。
斥候から停止のハンドサインが出た。
どうやら魔物がいるらしい。
一人が警戒したままもう一人が戻ってくる。
「ゴブリンが四匹。その内の一匹はゴブリンリーダーと思われます」
ゴブリンリーダーを含めて四体。
騎士の人達なら難なく倒せる。
だから、クレメンスは迷っていた。
「伸治さん。実戦をやってみますか?」
初実戦が予期せぬダンジョンの中でというのは危険だ。
野生動物相手に戦ったとはいえ魔物は別物である。
それも今回は人型だ。
異形のものであっても人に似た形をしたものを殺すのは忌避感がある。
恐怖で萎縮したり、躊躇って判断をミスしたりすれば生命に関わる。
だが、騎士団で対応しきれない状況に陥れば伸治たちも戦わなくてはならないのだ。
比較的、弱い相手がいるのならここで経験を積んで置いた方が良い。
でも、何の心構えも無い状態での実戦はやはり危険なのだ。
そんな逡巡を読み取ったのか伸治は間を空けずに答えた。
「わかりました。僕たちに任せてください。相手は四体だけど、僕とみな実とタカで対応する。涼子はもしもの時の回復を。絢奈は僕たちが不利だと思ったら支援だけしてくれ。出来るだけ攻撃魔法は使わないで欲しい」
「えっ、ゴブリンが四体ならわたしが攻撃魔法で蹴散らした方が良いんじゃない?」
絢奈が不満そうに口を尖らせる。
そんな彼女を伸治が苦笑を浮かべて窘めた。
「今回は自重してくれ。油断をしている訳じゃないけど、これは実戦経験を積むための戦闘だ。近接戦闘は魔物を間近にして戦わないといけない。恐怖に負けることはないと思うけどやっぱり経験しとかないと後々困ることになるからね」
優しく笑いかける、伸治。
そんな伸治を絢奈は上目遣いで見上げている。
だが、伸治の言ってることが正論だと思って絢奈は渋々納得していた。
まあ、彼女は伸治に危ないことをしてほしくないだけなんだけど、多分、その辺の乙女心は理解していないのだろう。
大輔は軽く肩を竦める。
そんな中、斥候が再度合図を送ってきた。
どうやら、ゴブリンが動き出したらしい。
「時間がないみたいだ。とりあえず、僕がそのゴブリンリーダーって奴の相手をする。タカは悪いけどゴブリン二体を相手してくれ。みな実は残りの一体をお願い。倒せたらタカの応援を頼む」
「OK」
「わかったわ」
二人が頷き、素早く動き出す。
剣を抜き曲がり角で深呼吸。
「まず、僕が飛び出す。タカはその後に続いて相手する二体を決めてくれ。みな実はそれを見てから残り一体の相手を頼む」
声を殺して話す伸治に頷きで答える二人。
それを確認した伸治はもう一度深呼吸してから飛び出した。
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