第二十五話 ダンジョン脱出会議
「それではダンジョン脱出会議を始める」
司会進行はクレメンス。
いつも優しい口調の彼だが、今は凛々しい。
名門貴族の出でさらに教会の幹部、教皇候補なので締めるときは締めるのだろう。
完全に指導者の貫禄だ。
「それではまず現状報告から、コールマン隊長」
「はっ。現場にいた者の全員の無事を確認。ケガ人もいません。周辺調査はまだですが、洞窟型のダンジョンかと思われます。現在、魔物やトラップは発見されていません」
「食料やポーション類は?」
「食料は大輔様の採取や勇者様たちが狩った魔物を持ってきているので一週間は持つと思われます。ポーション類も森の探索では使用してないのでそのまま残っています。現在、確認させていますが、転移によって瓶が割れて使用不能になっている様子はありませんでした」
クレメンスは頷き、視線をビリー隊長に向ける。
「ビリー隊長。貴方は昔、冒険者でしたね。過去の経験からこのダンジョンの傾向とかはわかりませんか?」
「すまねえな。オレは森とかの魔物討伐を主にやっていたからダンジョンは専門外なんだ。詳しいことはわからない」
「そうですか?」
「他にダンジョンに詳しいものはいますか?」
クレメンスがあたりを見回すが色よい返事は戻ってこない。
クレメンスは再度ビリー隊長に意見を求める。
「ビリー隊長。こういうダンジョンからの脱出方法はわかりますか?」
その問いに一般的なことしか言えないが、と前置きしてビリー隊長が応える。
「転移で飛ばされるダンジョンは基本的に転移陣がどこかに設置されているはずだ。ダンジョンの深さによるが必ず一つはある」
「そこは?」
「ああ、最下層。ボスを倒した奥だ」
重い沈黙が流れる。
ダンジョンの規模にもよるがダンジョンを支配するボスモンスターは強い。
規模が小さい物でもビリー隊長やクレメンスなどの強者がいてさえ厳しいだろう。
全体にどんよりとした空気が流れる。
そんな中、クレメンスの顔が大輔の方を向いた。
「大輔さん、何かわかることはありませんか?」
全員の目が大輔に集まってくる。
大半がなぜ大輔に意見を求めたのか不思議がっているようだ。
そんな中で大輔は悩みながらも応える。
「ここに入る前なら、あの石碑を調べるなりできたんでしょうけど、現状では何もわかりません。生憎ダンジョン関係の書物もまだ読んでないので。あれと似たようなものが有れば何かわかるかもしれませんが……」
「そうですか?」
残念そうに呟くと顎に手を当てて考え込んでいる。
大輔も今後どうすればいいか考えていた。
それにしても
「試練の祠かあ……」
大輔の呟きに皆の顔が一層暗くなる。
その声は危険な響きを放っていた。
「先ほども言っていましたがその『試練の祠』というのは?」
クレメンスが代表して聞いてくる。
本音を言えば答えたくなかったが、言わなかったら現状が好転するわけではない。
だから、素直に答える。
「先ほども言いましたが、外の石碑に書いてありました。一瞬だったので読めたのはそれだけです」
「なんであなたにそれが読めたんですか?」
コールマンが胡散臭そうに聞いてくる。
この男、キリクほどではないが大輔のことを快く思っていないのだろう。
それを感じたクレメンスが何か言おうとしたが、大輔は首を振る。
ここで揉めるのは得策ではない。
それに大輔の能力を言っておかないと後で説明に困ることが出てくるかもしれない。
そう思って大輔は自分の能力について打ち明けた。
「わたしは読書というスキルを持っています。それはこの国の文字だけでなく。古代語や魔法言語も解読可能なスキルです」
クレメンス以外の全員が驚いていた。
コールマンはまだ信用できないのかこちらを警戒するように見ている。
そんな彼をため息交じりに見返しながら話を切り出した。
「まあ、このダンジョンの名前なんてどうでもいいでしょう。いまは脱出方法を考えるのが先決です」
本当はどうでもよくない。
『試練の祠』という名前はかなり不吉な名前だ。
発生時期がつい最近だとすればそれが勇者召喚と関りがないわけがない。
となれば、ここは勇者に試練を与えてレベルアップさせたり、有効な能力や武器を授けたりするダンジョンなのだろう。
そんなダンジョンが容易く攻略できるように出来ているわけがないのだ。
ただ、望みもある。
勇者の能力を上げるためのダンジョンが勇者を殺すようなことをするだろうか?
やり直す機会を与えるくらいの救済措置はあるような気がする。
となると脱出方法がボス討伐以外ないなんてことはないだろう。
そんなことを考えながらクレメンスに視線を向ける。
彼も決意したのか方針を決めた。
「それではまずは探索ですね。まだ、転移陣がボスの先にしかないとは限りません。虱潰しに探しながら先に進んでいきましょう」
今できることをやるしかない。
結局、会議と言っても有益な方針は出ず、無難な方法をとることになった。
大輔は切れる手をいくつか頭に浮かべながらとりあえずは様子を見ることにした。
申し訳ありませんが急に仕事が立て込んできまして更新頻度を落とさなくてはならなくなりました。
次回から週一回、金曜更新です
書き溜めが出来て着たら週二回更新に戻す予定なのでご了承ください。
誠に申し訳ありません。
なんかタイミングが悪いのですが二月一日より新作を投稿しています。
タイトルは『月間パパラッチ創刊』
こちらは書き溜めているので2月半ばまでは毎日更新となります。
書き溜めが無くなり次第、こちらも週一か週二になりますのでご了承ください。
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