第二十四話 試練の祠
身構えていた大輔は石碑が光り始めた瞬間にギュッと目を閉じた。
これで終わりのはずがない。
まだ、何かが起こるはず。
それに備える大輔。
そして、大輔の身体が一瞬、ふわっと浮き上がった。
いや、そんな感覚があっただけだ。
大輔はその感覚が収まるとゆっくりと目を開けた。
周囲は真っ暗な闇に包まれていた。
さっきの光で目を焼かれたのかとも思ったが、しばらくすると目が慣れてきたのかうっすらと周囲が見え始めた。
まあ、視界はほとんどないが……
大輔は周りの状況を確認する。
周りからはうめき声が聞こえた。
どうやら、伸治たちも一緒のようだ。
「伸治、どこか身体に異常はないか?」
「大輔か? どうやら目をやられたようだ。周りが全く見えない」
「いや、これは周りが暗いだけだ。ライトの魔法を使えるか?」
「やってみる」
しばらくすると、目の前に光の球が姿を現した。
ライトの魔法だ。
直視してしまって少し眩しかったが問題はない。
大輔はその光を当てにして周囲を見渡す。
伸治以外の他のメンバーも近くにいる。
クレメンスとビリー隊長は少し離れたところにいたみたいで同じように光の球を生み出してこちらにやって来た。
残りは騎士たちだが、別の光が生まれてそちらの方から声が聞こえてくる。
どうやらこの先にいるようだ。
大輔はひとまず安堵の息を吐いた。
「大輔さん。ここはどこかわかりますか?」
少し離れたところにいたクレメンスが傍までやってきて聞いてきた。
「わかりません。わかりませんけど、多分、クレメンスさんが考えていることと同じことをオレも考えています」
その言葉にゆっくりと頷くクレメンス。
やっぱりこの人は頼りになる。
いきなりこのような目に遭ったのに冷静だ。
そんなクレメンスさんが声を落として
「さっきの石碑にはなんと?」
「『試練の祠』と。他にもいろいろ書かれていましたが、距離があったのと、すぐに光りだしたのでそこまでしか読めませんでした」
「そうですか」
残念そうにそう言うとクレメンスは何か考え込むように口を噤んだ。
そんな風に二人が話している間にビリー隊長は他のメンバーを落ち着かせ、装備と持ち物の確認をさせている。
不測の事態で最初に持ち物や装備の確認をするのは基本である。
流石はビリー隊長頼りになる。
さて、今後の方針だが……
「貴様! 一体なにをした!」
そこにバカがやって来た。
キリクだ。
大輔の胸倉を掴んで今にも殴りかからんとしていたキリクは逆に吹っ飛ばされていた。
「何をするのですか。クレメンス卿」
倒れ伏したキリクは頬に手を当てて怒りに任せて叫んだ。
そんなキリクに絶対零度の視線を向けたクレメンス。
「貴方こそ何をやってるのですか? いい加減にしないとここで首を叩き落しますよ」
冷たい声音に緊張する面々。
いまのセリフは冗談ではないのだろう。
そこには凄みがあった。
腰を抜かしたのか地に伏したままキリクはその場で凍り付いている。
そんなキリクにクレメンスは一瞥もくれることもなく騎士隊長を呼ぶ。
「コールマン。状況報告」
「はっ。第一騎士団、第13小隊、隊員全員の無事を確認。周囲を目視した結果、洞窟型のダンジョンに転移したように思われます。ここに来る間に怪しい物はありませんした。壁、天井、床は石や岩混じり土で特に魔力反応もありません」
「よろしい。総員、装備を確認しながら待機。隊長は今後の方針を決めるこちらに来てくれ」
「はっ」
コールマン隊長は敬礼をした後に副隊長に今の命令を引き継ぎに行く。
声が聞こえていたのだろう。
2、3やり取りをして直ぐにこちらに戻ってくる。
そして
「クレメンス卿もコールマン隊長もどうかしています。こやつが何かやったに違いありません。その証拠にこいつは石碑に触るなと叫んでいました。何か知ってるんです。拷問してでも聞き出すべきです」
喚くキリクにコールマンは静かに剣を抜く。
「キリク。最後通牒だ。隊のみんなの元で黙って待機していろ。このような事態だから拘束はしない。戻ってから処分が下ることは覚悟をしておけ!」
「何を言ってるんだ、コールマン! 貴様、伯爵家の人間に向かって!」
「連れていけ!」
この騒ぎに気付いていた隊員たちがキリクを囲んで連れていく。
「お前等、オレに、サーズデン伯爵家の人間に逆らうのか! 離せ、こんなことをしてタダでは済まさんぞ!」
喚き声が遠ざかっていく。
邪魔になると思ったのか騎士団の隊員たちは曲がり角の向こうにまで離れていた。
コールマンは盛大に溜息を吐いた後に頭を下げる。
「お騒がして申し訳ありませんでした」
「構わん。いまは非常時だ。さっさと対策を話し合おう」
時間が惜しいとクレメンスが切り捨てる。
クレメンスはこちらを見て一つ頷き話し合いを始めた。
余談ですが2月1日に新作を投稿します。
タイトルは『週刊パパラッチ創刊』です。
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