第二十三話 謎の石碑
昼食後、しばらく休憩を取ってから実戦訓練へと移っていった。
最初はウサギや鳥などの小動物からだ。
生き物の生命を奪うというのは本能的に忌避される。
ましてや、平和な日本で生活していたのだ。
女性陣など虫すら殺したことがないのかもしれない。
案の定、絢奈とみな実は見た目がカワイイウサギや鳥などに手を出せずにいた。
それどころか騎士たちが狩りをしていたのを見て、興味を持った大輔が風魔法で鳥を落として捌いて食べようとすると非難された。
折角のキリホロ鳥の丸焼きはビリー隊長に食べられてしまった。
鑑定曰くキリホロ鳥は大変美味らしい。
残念だ。
どうやら、大輔はこの辺りの倫理観に欠けているようだ。
だって鳥も魚も一緒でしょ。
見た目や賢いからと言って差別はいけない。
美味しく食べるのなら殺すのも吝かではないのだ。
と言う訳で今回の訓練は難航を極めるかと思われた。
伸治たち男性陣でさえ、小動物を殺すのを躊躇っていたのだから
だけど、その結論は早計だった。
そんな狩りをしていた時に奴が現れた。
現在、騎士たちは少し離れたところにいる。
伸治たちの実力を見て、危険がないと判断したのだろう。
そこに現れたのだ。
オオカミ。ビックシルバーウルフ。
その名の通り、銀色の毛並みを持つ大きな狼。
その体長は2mを越える。
そして、厄介なことにこの狼、集団で襲ってくるのだ。
そんなビックシルバーウルフの集団に囲まれている。
数は10匹くらい。
そして、多分、この群れのボスなのだろう。
ひと際大きな3mを超す狼が咢を開けて吠えた。
「うぉおおおおおおおおおおお」
その雄叫びに騎士たちが気付いた。
だが、もう遅い。
ビッグシルバーウルフの群れは伸治たちに容赦なく襲い掛かった。
結果……
周りは死屍累々の状態だった。
血で周りの木や大地が濡れている。
ところどころ焼け焦げた跡も
焼け焦げたあと?
「なんなのよ。このワンコたちいきなり襲ってきて舐めてんの。こっちは可愛いウサギを捌かなければいけないって四苦八苦してるのに!」
「絢奈。これはワンコじゃなくてオオカミよ」
「うわあ。オレ、オオカミ初めて見た。オオカミってこんなにでっけえの?」
「バカねえ。オオカミは大型犬くらいよ。こんなに大きいのは異世界だからじゃない?」
全然平気そうだった。
まあ、ステータス的に言えば相手にならないのはわかっていた。
ビッグシルバーウルフと大層な名前が付いていても所詮はオオカミである。
野生動物に毛がついたようなものだ。
でも……
「お前等、生き物を殺せないんじゃないの?」
「お前、何言ってんの。こんなデカいのに襲われたら普通反撃するだろ。まあ、殺すのはちょっと気が引けたけど、追い払ってもどうせまた襲ってくる。それに他の人が襲われても問題だからな。ここは止めをさしておいた方が無難だろ」
なんかバカの癖に西郷が正論を言っている。
驚きながら周りを見ると他の面々も意見は一緒のようだ。
大輔は首を捻る。
「え? なんで? ウサギはダメなのにオオカミは良いの?」
「何言ってるのよ。当たり前じゃない。害のない可愛いウサギとデカくて危険なオオカミが同じ扱いのわけがないじゃない」
他のメンバーも頷いている。
どうやら大輔の価値観が間違っているらしい。
大輔は首を捻るしかなかった。
守る為に殺すのは正義だけど、食べるために殺すのは嫌だ。
それより見た目?
目がクリクリしてモッフモフなオオカミだったら殺せなかったの?
それとも可愛いウサギが襲い掛かってきたら殺せるの?
う~ん。よくわからない。
悩み始めた大輔に伸治が肩を叩いて慰めてくれる。
なんだかバカにされたみたいで納得がいかない。
そんな大輔達を見ていたビリー隊長は方針を変更した。
標的を大型の害獣に変更したのだ。
その後は至極順調に進んだ。
大イノシシ、熊、トラなど順調に狩られていく。
熊相手でも伸治やみな実は一刀で切り伏せ。
西郷は殴り、涼子と絢奈は近づく前に焼き尽くす。
途中、素材が取れないのと火災が心配だからと火魔法は禁止されたが、それでも問題なく蹂躙していた。
本当に大猟だった。
ちなみに大輔も戦ったよ。
熊は怖かったので戦わなかったがイノシシは魔法で倒した。
あとで貰って料理させてもらう予定だ。
それを聞いた絢奈が喜び、鮮度が落ちるとマズいので魔法で瞬間冷凍している。
解凍も魔法でやれば風味を落とさず一瞬らしい。
魔法がマジで便利だ。
と言う訳で本日の目的は果たせた。
結果にビリー隊長も大満足である。
今度はダンジョンで弱い魔物の相手もいいかもしれないと言っていた。
そう、この世界にはダンジョンがあるのだ。
どうして存在するのか分からないが魔物が生まれ続ける未知の存在。
様々な形態のダンジョンが存在し、罠や宝箱まで存在する。
そして最深部にいるダンジョンを守る魔物を倒すと消滅し財宝を残す。
一説では神が人間の成長を促すための試練とも
邪神がこの世を滅ぼすために作り出した物とも言われている。
この国にもそんなダンジョンがいくつか存在するらしい。
大輔はそれに少しワクワクしていた。
「ダンジョンかあ。ちょっと行ってみたいかも」
完全にフラグを踏んでいた。
「あれ、なんだ?」
それに気付いたのは伸治が指差した先に石碑を見た時だった。
水晶のように青く透明な石碑。
そこにはこの国に来てから一度も見たことのない文字で何かが掛かれていた。
その文字はなにかに似ていた。
そうだ、ルーンだ。
大輔がそこに思い立った時、騎士団の面々が石碑に近づいていくところだった。
そして
「やめろ! それに触るな!」
大輔が大声を上げていた。
だが、そいつは大輔のいうことなど聞かなかった。
というか聞くわけがなかった。
ニヤリと笑ってわざと逆らうように石碑に触れる。
あのバカ状況がわからないのか!
大輔は憤りながらもこの後に起こる悲劇に備える。
キリクが触れた石碑は閃光を発して周囲を真っ白に染め上げた
余談ですが2月1日に新作を投稿します。
タイトルは『月刊パパラッチ創刊』です。
宜しければ読んでください。
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