第二十二話 森への探索
祝5000PV記念投稿です
一夜明け、森への探索の日がやって来た。
天気は快晴。
雲一つない絶好の冒険日和だ。
そんな天気とは対照的に大輔の気持ちはどんよりしている。
昨日より嫌な予感は増していた。
大輔は勘の鋭い方ではない。
良い予感など当たったためしがない。
だが……
「オレって悪い予感だけは当たるんだよな」
そうなのだ。
多分、偶然。いや、印象に残っているから悪い予感が当たると思っているだけだろう。
そうだ。
エライ心理学者さんもテレビで確か言ってたはず。
何とかの法則とか名前もついていたはず。
うん。きっと、そうに違いない。
そんな風に何とか自分を宥めて身支度を整えていく。
そして、朝食を摂り、集合場所であるいつもの中庭に来ていた。
伸治たちと護衛の騎士たちは既に準備を整えている。
「おはよう。大輔」
いつも通りの爽やか笑顔で迎えてくれる、伸治。
そんな彼に大輔は欠伸交じりの返事を返す。
「わりい。遅くなったか?」
「いや、まだ集合時間前だからな。ビリー隊長もクレメンスさんも来ていないみたいだし」
そう言われて周りを見てみると確かに二人の姿は見えなかった。
それとは別に嫌な奴の顔が……
「なんだ? あいつ」
伸治も気付いたみたいだ。
騎士の中にこちらを、いや、大輔を睨んでいる男がいることに
「わりい。昨日、ちょっとあの騎士と揉めたんだ。気にしないでくれ」
「揉めたって――はあ、本当にお前は誤解されやすいんだから注意した方がいいぞ」
盛大に溜息を吐く伸治にムッときたが何とか抑えておく。
確かに大輔にはトラブルメーカー的なところがある。
自覚していないわけではない。
だが、その原因の何割かは伸治なのだ。
誰のせいで絡まれているのか小一時間ほど説教してやりたかった。
でも、今はそんな暇も気力もない。
だから、ひとまとめにして溜め息に込めて外に吐き出す。
ふうう、これで万事解決。
そんな大輔の行動を伸治は何か言いたそうな目で見ていた。
そして、そのことに大輔は気付いていない。
その時、最後の二人がやって来た。
「待たせたみたいだな。がはははははは」
いつも元気なビリー隊長だ。
その勢いについていけないのかクレメンスは苦笑気味。
ビリー隊長はそんなクレメンスに気付くことなく大声で全員を集め話し始める。
「では、今日の行動予定について説明する――」
ビリー隊長がしたのは本当に確認作業だけだった。
今日の行動予定は事前に説明されている。
簡単に言うと
森に行く。
森を散策。
テントや火おこしなど簡単なサバイバル訓練。
木々などの障害物や足場が悪い所での戦闘訓練。
動物や魔物の狩りを実地演習。
薬草、食材の現地調達。
などなどだ。
まあ、基本はこの通りだが、敵は大自然だ。
こちらの思惑通りになるとは限らない。
とは言ってっも王都近郊の森なので危険はほとんどない。
危険な魔物は既に殲滅しているし、森の状況を定期的に調査している。
ビリー隊長の言葉はあまり油断するなよと脅しているだけなのだ。
と言う訳で全員所定の荷物を持ち、森へと出発するのだった。
「はあ、はあ、はあ」
「大輔、大丈夫か? 何なら荷物持つけど」
「前衛のお前の両手が塞がってちゃダメだろう。気にせずに周囲の警戒をしておけ」
「だけど……」
「そうですよ。勇者様。それくらいの荷物が持てないようじゃ外で活動など出来ません。お荷物は城で大人しくしておくべきです。それにこの者は荷物持ちくらいにしか出来ないのですから、それくらいの役割は与えてあげないと」
慇懃無礼に話に割り込んできたのは説明しなくても分かるだろう。
いやらしい笑みを浮かべているのは『職業 貴族の三男』のキリクだ。
こいつ大輔のステータスを調べたのだろう。
戦闘職でないことを知ってあからさまにバカにしてくる。
その物言いに流石の伸治も頭に来たのか眉間に皺を寄せる。
それを大輔が宥めていた。
このやり取りは今日何度目になるかわからない。
最初の内は大輔にだけわかるようにチクチクやっていたのだが、徐々にエスカレートしてきている。
流石にビリー隊長とクレメンスに気付かれるのはマズいと思っているのでそこだけは考慮しているみたいだが、傍にいる伸治たちには既にバレている。
いや、気付かれても構わないのだろう。
キリクにとって伸治たちは勇者と言っても異世界人。
しかも平民だ。
気遣う必要など感じていないのだろう。
「大輔。あんなこと言わして置いて良いのか! ちょっと隊長さんに言ってくる」
とうとう我慢できなくなったのか伸治が列を離れようとした。
それを大輔は抑える。
「やめておけ。あんなバカのいうことは放って置けばいいんだ。犬が吠えてるのをいちいち気にしていたらきりがないぞ」
「貴様。わたしを犬呼ばわりするのか!」
どうやら思いのほか声が大きくなっていたらしい。
冷静なつもりだったが大輔も腹を立てていたようだ。
反省。
と言う訳で
「騎士様。なにを怒っているのですか? わたしは犬について話してただけですよ。それとも貴方は犬だという自覚があるのですか。これはすみませんでした。失礼なことを言ってしまいました。伸治、御犬様がワンワン言って居られるので謝罪して差し上げろ」
大輔のセリフに堪え切れなかったのか女性陣が吹きだしていた。
それを見たキリクは顔を真っ赤にしている。
これは恥ずかしいからなのか?
それとも怒っているのか?
まあ、両方だろう。
流石に女性陣にまで食って掛からないくらいの分別はあるようだ。
そのまま足音荒く離れていく。
それを横目に大輔は肩を竦めておく。
そして、伸治は苦笑を浮かべていた。
そんなこんなで森の探索は順調に進んでいた。
サバイバル訓練も戦闘訓練も問題なく消化されていく。
大変だったのは荷物を持って長距離歩かされたくらいだ。
えっ、キリクのことはって
あんなの日常茶飯事だ。
日本で受けた嫌味やいじめの数々に比べれば大したことがない。
貴族ならもっと洗練された嫌味などを言うべきだろう。
まあ、この辺のセンスの無さが所詮、『職業、貴族の三男』の限界なのだろうが。
軽く、ディスって心を静めておく。
それにしても嫌な予感は何だったのだろう。
もしかして、気のせいだったか?
そんな風にしっかりフラグを踏む大輔だった。
えっ、えっ、止めてよ。変なナレーションを流すの。
皆様のおかげで5000PV達成しました。
前作と言ってもまだ連載中ですが、三か月かかったのが今回は一か月ちょっとでここまで来ました。
誠にありがとうございます。
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