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第二十一話 案ずるより産むがやすし


「そんなに睨まないでください。わたしは大輔さんと争う気はありません」


 先に折れたのはなぜかクレメンスの方だった。

 大輔は警戒しながらも確認する。


「いつから気が付いてたんですか?」


「昨日ですかね。ステータスバーの話をしている時、貴方の視線は絢奈さんの顔でなく少し上に向いていました。微かな違和感だったのでその場では気付かなかったのですが、ふと、あれは非表示状態のステータスバーを見ていたのではないかと思ったのですよ」


 この人はやはり侮れない。

 僅かの視線の差を見逃さずに真相に行きついている。

 下手に隠して心証を悪くしたり疑われる方が不味い。

 もう白状した方が良いのだろう。

 だが、問題はどこまで話すかだ。


 懸命に思考を巡らす。

 だが、回答は出ない。

 そうこうしている間にクレメンスが口を開く。


「やはりそれは読書スキルの効果ですか?」


「なぜそう思うのです?」


 大輔は動揺を隠しながら答える。

 多分、隠しきれていないことは大輔にもわかっていた。

 しかし、クレメンスはそれを気にもしないで自分の推理を話してくれた。


「単純に消去法です。先日見せて頂いたステータスにスキルは二つしかなかった。異世界言語と読書スキルです。異世界言語は全員が持っていました。だけど、他の人がステータスバーを見れるかと言えばそうではありません。他の人達を見ていればわかります。あと残るのは読書スキルのみです」


「あれから新しいスキルを覚えたとは考えられませんか」


「無理でしょうね。新しく覚えられたスキルは剣術や槍術などの単純な戦闘スキルや魔法スキルぐらいだと思います。他の人達を見ていればわかりますよ」


「僕はステータス鑑定を覚えていました。そのレベルが上がっただけとは考えられませんか?」


 苦しい言い訳なのはわかっている。

 だが、今、大輔のステータス鑑定はレベル3まで上がっている。

 異世界チートでステーラス鑑定のレベルが上がったことにすれば……


 無理だ。

 さっきクレメンスのステータス値を見てしまったばかりだ。

 レベル4でしか見られない内容を知っている説明がつかない。


 そんなことを考えている大輔をクレメンスはあっさり否定した。


「ステータス鑑定は戦闘系スキルです。近接戦闘訓練をしているあの3人でさえ、まだレベル3。失礼ですが大輔さんにあの3人以上の素質があるとは思えません。それこそ特殊なスキルの恩恵があれば別ですが」


 ニヤリとこちらを伺うような目で見てくる。

 大輔は大きく溜息を吐いて両手を上げた。


「どうやら隠し事は出来ないみたいですね。そうです。読書スキルの効果です」


 いきなり素直に答える大輔の目をクレメンスはジッと見てくる。

 なんでも見透かしてそうなその視線に大輔は耐えた。

 視線をそらさず、真っ直ぐに見つめ返す。


 そして


「わかりました。話して下さいましてありがとうございます」


 そう言って柔らかい笑みを浮かべた。

 厳しい表情はもうなく、いつもの優しいクレメンスに戻っている。

 その豹変振りに大輔は拍子抜けしていた。


「詳しい話を聞かなくてもいいのですか?」


 大輔はまだ警戒を解かずに確認する。

 クレメンスは首を振って話し出す。


「必要ありません。この世界に来て警戒するのは当然です。もしものことを考えて手の内を隠しておくのは正しい。逆にこちらをバカみたいに信じて何もかも曝け出すような人とは危険で本音を話せない」


 悪い笑みを浮かべるクレメンス。

 どうやらこの人は偽悪趣味なところがあるようだ。

 大輔は笑って答えておく。


「過去に何があったか知りませんが貴方は疑り深く、他人を信用していません。ですが、それは言い方を変えれば慎重で思慮深いと言えます。まだ、付き合いの短いわたしですが大輔さんをそれなりに信頼しているんですよ」


「それなりにですか?」


「ええ、それなりにです」


 そう言うと二人は黙って視線を合わせた。

 そして、同時に笑い出す。

 周りが何事かと思ってこちらを注目していたが、二人は全く構わない。


 そして、クレメンスが


「大輔さん。わたしからは聞いたりしません。ただ、貴方が困った時、相談したくなった時は遠慮なく話して下さい」


「わかりました。その時はお願いします」


 大輔は素直に頭を下げていた。

 クレメンスはニコニコと笑って頷いている。


 その後、クレメンスはこの話題に触れることなく大輔に協力してくれた。

 クレメンスはあるスキルを持っていたのだ。


 鑑定:ステータス、魔導具、武具、防具、アイテム。

    5つの鑑定スキルが統合された物。

 

 クレメンスさんが持っていたスキルは破格の物だった。

 チートと言ってもいいようなものだ。

 本人は家に物が溢れていて自然に身についたと言っていたが、このようなスキルを得られたのは才能はもちろん、とんでもない努力をしてきたのだろう。

 大輔は彼に対して素直に尊敬の念を抱いていた。


 その後、絢奈や涼子など、色々な人のステータスを彼の鑑定スキルで見せて貰った。

 そのおかげでステータス鑑定はレベル5まで上げることが出来た。

 これで準備万端とは言えないが、最低限の備えは出来たと言えるだろう。


 だが、大輔の頭では不思議な警戒音が鳴り響いてた。

 臆病からなら問題はない。


 だが……


 大輔は不安な思いを抱きながら眠りに落ちていくのであった。 



いよいよ、次回から森に行きます。

安全な森と言われていますが何かが起こるのでしょう。

起こるといいな。

もしかして起こらないとか?


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