第十九話 「そちも悪よのう」と言ってみた
「それにしてもなんでオレが悪者になっているんだろう?」
理不尽に慣れた大輔でも少しイラついていた。
はっきり言ってキリクとか言うバカ野郎が完全に悪い。
まあ、ステータスを見て笑ってしまった点は反省するが、それだって、それまでの無礼を考えれば大したことではないだろう。
それにあのステータスを見て笑うなというのは酷である。
騎士面して威張り腐っていた人間が『騎士の身分を金で勝った男』なのだ。
それも実際には正騎士でなく準騎士である。
まあ、準騎士は騎士と名乗って言いそうなのだが、それでも大輔にしてみれば準騎士の癖にという印象が付いて回る。
今度、キリクにあったら『準騎士様』って呼んでやろうか、と思わずほくそ笑む大輔だった。
うん。オレは悪くない。この件は忘れよう。
と自己弁護しておく。
存外、大輔は切り替えが早いのである。
「それにしても当てが外れてしまったなあ」
そうなのだ。騎士の控室で何人かのステータスが見られれば、レベルアップが見込めるかとも思っていたのだ。
だけど、もう騎士の詰め所には戻れないだろう。
何食わぬ顔であの場にいても気まずい思いしかできない。
それに下手すると他の騎士にまで今回の件が知れ渡っているかもしれない。
ああいうタイプは自分のことを棚に上げて、相手の悪い面を何倍にも膨らませて話すことに長けている。
だが、さっきの隊長さんの口振りからして、彼は日常的にああ言う傲慢な態度を取っているのだろう。
だったら、それほど心配ないような気もする。
ただ、警戒はしておいた方が良いだろう。
相手が貴族と言うのも気になるし……
しまったなあ。ちょっと早計だったかも。
今更ながら少し反省する大輔だった。
「こんにちは」
と言う訳で大輔は魔法の訓練場にクレメンスを尋ねて来ていた。
今日も涼子と絢奈は真面目に魔法の練習をしている。
それを横目で見ながらクレメンスに話しかける。
「クレメンスさん。さっき中庭の近接戦闘組でステータスの確認をしてきたのですが彼女たちのステータスチェックはしてるんですか?」
「ええ、わたしは鑑定レベルが低いので見られませんが、鑑定の宝珠を持ってきていますので」
そう言って小脇に置いてある荷物から掌大の水晶玉のような宝珠を取り出す。
「これって貴重な物じゃないんですか? 騎士の詰め所にもありましたけど」
「貴重ですがレベル2の鑑定の宝珠はそこそこ出回っているんですよ」
「そうなんですか?」
小首を傾げて聞き返す、大輔。
「はい。魔導具の製作方法にはいくつか方法がありまして……」
クレメンスが魔導具について教えてくれた。
魔導具には二種類あること。
一つは魔法文字『ルーン』や魔法陣などの魔法回路を組み込んで製作する物。
これは使う魔法文字や魔法陣が解析できていれば容易に複製ができ汎用性が高く、安価なものが多い。
魔力灯や水が出てくる魔導具などがこれに当たる。
この世界では日本の電化製品のような使われ方をしている物である。
そして、もう一つは宝珠と呼ばれる魔石を加工したものに自分のスキルを付加したものだ。
これは希少品が多い。
まず、付加スキルを持っている者が少ない。
そして、付加スキルは自分の持っているスキルにしか使えず、さらにその効力はランクが落ちたものになるのだ。
つまり、レベル2の鑑定の宝珠はレベル3以上の鑑定スキルを持つ付加スキル所持者が製作しないとできない。
そんな貴重な人材の手間賃が安いわけがないのだ。
ただ、この付加スキルは生産系の者が取得できる確率が高いのだが、魔法系の者も稀に習得できる。
だから、ステータス鑑定の宝珠は高価だが、まだ入手は可能な魔導具だった。
大輔はクレメンスの説明を聞いて頷いていた。
そして、新たに付加スキルについても調べないといけないな、と心のメモに記しておく。
「その魔導具はクレメンスさんの個人的な物ですか?」
「まさか。これは教会で所有している物です。教会では一般人でもステータス鑑定の宝珠が使えるように置いてあるのですよ。ただ、若干のお布施はいただきますがね」
クレメンスは人の悪い笑顔を浮かべる。
べつ大輔はニヤリと笑って一言
「そちも悪よのう」
「いえいえ、大輔様ほどではありません」
お互い目を合わせて、吹き出した。
本当にこの人はノリのいい人である。
それにしてもこの手のやり取りはどこの世界でも通用するのだなと、場違いな感想を抱く大輔だった
ちなみに一言いっておくとクレメンスは別に金に汚い悪徳神官ではない。
『教会ならタダで施せよ』と言う人もいるかもしれないがステータス鑑定の宝珠は貴重品である。
もしお金を取らなければ、いい加減な扱われ方をして壊されるかもしれない。
それに丁寧に扱っていても壊れるときは壊れる物である。
お布施は壊れた時の購入費に当てられるそうだ。
まあ、どこまで信用できるかわからないけど……
まあ、そんな話は置いておいて大輔は本題に入る。
クレメンス相手に腹の探り合いをしても勝てそうにないので今回も直球勝負だ。
「クレメンスさん。貴方のステータスを見せて頂けませんか?」
「それはどうしてですか?」
軽く眉を潜めて聞き返す。
「不快に思われたのなら申し訳ありません。明日、森に探索に行きますよね。その時、クレメンスさんも同行するじゃないですか。貴方が強いのは雰囲気でわかりますが、ちゃんとこの目で確かめておいた方が安心できると思うんですよ」
クレメンスは大輔の表情を首を傾げながら伺っている。
「護衛には騎士の小隊が付きますよ。問題ないかと思われますが?」
「それなんですがね……」
大輔はさっきの件について正直に話した。
それを聞いてクレメンスは苦笑を浮かべている。
「と言う訳で少し揉めてしまいましてね。まあ、あり得ないとは思うんですがキリクと言う人に恨みを買っているかもしれなくて信用できないんですよ」
「まあ、キリク伯爵の息子ならありうる話ですね。それにしてもあまり揉め事は起こさないでくださいね」
同情しつつもクレメンスは大輔にしっかりと釘を刺してくる。
大輔は素直に頭を下げていた。
「それでは仕方がありませんね。戦闘は得意ではないので大輔さんが安心できるかはわかりませんがお見せしますね」
そう言ってクレメンスは宝珠を手に取り念じるのだった。
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