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第十三話 スキルの検証をしてみた

 現在、大輔は魔法についての本を読んでいた。

 今回、クレメンスに借りた魔法の本は三冊。

 どれも似たような内容の物を用意してもらっている。

 そのことにクレメンスは首を傾げていたが、これは読書スキルの検証も兼ねているのだ。

 結果は


「やっぱり、予想通りか少し厄介だなあ」


 大輔は頭を抱えていた。

 大輔が読書スキルについて知っておきたかったのは信頼性である。

 そして、わかったことだが、このスキルを鵜呑みにするのは危険だということだ。


 このスキル文字通り、本に書かれた意思や意味を読み解くための物だった。

 つまり、本に書かれた内容が正しかろうが、間違っていようが書かれている内容をそのまま理解が出来るだけなのである。

 試しにそれぞれの本で同じ単語にスキルを使ってみたが、本によってその意味が変わっていた。

 多分、これは書き手の解釈の違いなのだろう。

 ほとんど同じような意味だが、ニュアンスが違うものがいくつかあった。


 それより問題が大きいのが、双方違う見解を示している部分だ。

 その部分にスキルを使ってみたが、両方とも書いてある通りの解説が出てくるだけでその真偽はわからなかった。

 このスキルが出来ることは本に書かれた内容に沿って解説してくれるだけ。

 それ以上でもそれ以下でもないらしい。


 これには困った。

 なまじスキルの結果だと思うと信じてしまいがちになる。

 スキルを過信し過ぎることのないように心に留めておかないといけない。


 ここで一区切り、

 いつの間にかかなり深い時間になっていた。

 日本でなら徹夜で読書なんてこともしていたが、ここではそうはいかない。

 何が起こるかわからないのだから体調は極力整えておく必要がある。

 まだいくつか気になることがあったのだが、それはひとまず置いておいて大輔は眠りに就くことにした。



 異世界生活 六日目。

 今日は朝から雨が降っている。

 明日も雨なら森行きはどうなるのだろうか?

 そんなことを考えながら身支度を整えているとメイドさんが食事の準備が出来たと報せに来た。


「大輔様。お食事の用意が出来ております。食堂の方にお越しください」


「わかりました。そうだ。少しお願いしたことがあるんですけど」


 コミュ障で女性の扱いに慣れていない大輔だったが、

 こちらに来てからいつもお世話してくれているだけあって、このメイドさんとは普通に話せる。

 ……話せてるよね。

 少し自信がないが今は関係ない。

 昨日、思いついた検証実験に付き合ってもらうことにした。


「食事の後に少しお願いしたいことがあるんだけどいい?」


「はい。どのようなことでしょうか?」


「ちょっと気になったことがありましていくつかお聞きしたいだけなんです。すぐに済むのでお願いできませんか? ちなみにメイドさん。あっ、まだ名前を聞いてなかったね」


 今更なことに気付いた大輔は自分のコミュ力の無さに絶望した。

 ガクリと肩を落とす。

 そんな大輔に微笑みながら


「メアリーと言います。よろしくお願いします」


「メアリーさんね。僕は朝倉大輔です。こちらこそよろしく」


 そう言いながら頭を下げる、大輔。


「知ってます」


 とうとう堪え切れなくなったのかメアリーはころころと笑っていた。

 なんだか非常に恥ずかしい。

 本当は初日にやる挨拶を五日目にやるのが大輔クオリティーなのだろう。

 苦笑しかできない。


 では、本題。


「それでメアリーさん。読み書きは出来ますか?」


「一通りは出来ます。ですけど、文字を学びたいのでしたらちゃんとした教師を用意しますが?」


 大輔は首を振って否定する。


「そんな大層なことじゃないんです。それに僕はスキルでこの世界の文字が読めますから」


「では、何のために?」


 う~ん。どう説明しようか? 

 スキルのことは話すつもりはない。

 この娘を信じられないとか関係なしにこういう情報は知られればどこで漏れるかわからないから。

 じゃあ、どうするか。


「メアリーさん。食事の時間に遅れるんじゃないですか?」


「そっ、そうでした。では、出来るだけ早く来てくださいね」


 大輔が誤魔化すようにそういうとメアリーは慌てた様子で部屋を出て行った。

 給仕も彼女の仕事なのでここでゆっくりしている訳にもいかないんだろう。

 かなり、強引と言うか無理な誤魔化し方だったけど上手くいったと胸を撫で下ろす大輔だった。



 食事を終え、魔法の練習に少し遅れると伝えてから自室に戻った。

 しばらくするとドアをノックする音が聞こえてきた。

 メアリーが入ってくる。


「大輔様。お待たせしました」


「どうぞ、早速だけど、こっちに座って」


 そう言いながら素直に椅子に座るメアリー。

 この娘には警戒心が全くない。

 まあ、ヘタレな大輔が女の子に何かできるわけなんてないので問題はないのだが……


 まあ、そんなことはどうでも良い。

 本題に入る。


「じゃあ、とりあえずここに書いてあるのは僕の世界の文字なんだけどこれを書いてもらえる?」


「大輔様の世界の文字ですか?」


 キョトンと可愛らしく首を傾げるメアリー。

 大輔は『萌え~』とか言ってしまいそうになるのを懸命に堪えながら『火』と書いた紙を差し出す。

 メアリーはそれを受け取り、別に渡された紙に『火』と書く。

 初めて見た文字なので多少いびつだったが、間違いなく『火』と呼べるレベルの字だった。


 うん。スキル発動。


 スキルはこの字を『火』と認識している。

 つまり、知らない文字でも書き写した物にはちゃんと意味が伝わるわけだ。

 これで写本が読めないということはなくなった。


 では、次の実験。


「これは水って意味なんだ。もう一度書いてみてくれる」


「同じ字でいいんですか?」


「うん。水って書いてみて」


「わかりました」


 わかりましたと言っているが、納得していないのだろう。

 不思議そうに『火』と書いている。


 さっきより幾分綺麗に書かれた『火』の文字。

 そこにスキルを使ってみると……


 おお、火と書いてあるのに水と読める。

 つまり、書いた本人の認識した意味が表示されるわけだ。

 この発見はかなり貴重だ。


 さて、あとはどうするかな? 

 当初の目的は既に果たされた。

 だが、ここで終わったら変に思われるだろう。

 上に報告されて不審に思われるかもしれない。


 それならと思って少し字を教わることにした。

 この世界のアルファベットと簡単な単語を少しだけ。

 時間にして一時間程度の授業だった。


 大輔はメアリーにお礼を言って帰そうとしたが、ふと『火』の文字が目に入った。

 そして、このまま彼女に間違った字を教えたままでいいのかモヤモヤしてしまった。

 まあ、漢字なんて彼女がこれから使うことはないのだろうけど、こんなに親切にしてくれている人を騙すのは気が引ける。

 と言う訳で


「ちょっと待って。よく見たらメアリーさんが書いた字は『水』っていうより『火』の字に似てるかも」


 そう言いながら『火』と『水』の字を並べて書く。


「こちらが『火』で、こっちが『水』ね。似てるでしょ」


「本当だ。確かにわたしが書いた字は水と言うより火ですね」


 自分で書いた字を見比べている。

 その間に気付かれないように大輔が手本で書いた『火』の字は廃棄済みだ。


「じゃあ、もう一度書いてみて」


「はい」


 そういうとメアリーはよく見ながら水と火の文字を書いていく。

 なんか小動物みたいでカワイイ。

 書けた字を大輔が確認すると、見た目もスキルで見てみても意味は正しくなっていた。


「うん。バッチリだね」


 大輔がそう言うとメアリーは嬉しそうに笑っていた。


「大輔様。これを貰ってもよろしいですか?」


「いいけど。そんな物欲しいの」


「はい。なんか不思議な形でカワイイです」


 う~ん。外国人が漢字の書いたTシャツを着る感覚なのかなあ? 

 大輔が頷くと嬉しそうに自分が書いた漢字が書かれた紙を胸に抱いて出て行った。


 そして、一人部屋に残った大輔はニヤリと笑う。

 予想外の出来事だったが、最後のやり取りで読書スキルのことがもう一つ確認できた。

 本人の認識次第で解説が変わることが立証されたのだ。

 それならと、思いついたことをいくつか検証してみる、大輔。

 その結果は十分過ぎるものだった。

 大輔は一層悪い笑みを深める。


「これはいろいろ使えるな。さて、予想以上に時間を食ってしまった。急いでいかないと」


 そう思いながら部屋を足早に出ていくのであった。



これが今年最後の投稿になります。

来年もよろしくお願いします。


下に小説家になろう勝手にランキングのリンクが貼ってあります。

一日一票投票できるのでよろしければリンクを踏んで投票してください。

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