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第十一話 遺された本が疑惑を呼ぶ

 大輔は逃げるようにその場を後にした。

 もちろん、本は回収済みだ。

 はっきり言ってこれ以上、この世界に干渉してはいけない。

 その所為で余計な争いが起こっても大輔には責任なんて取れないのだから。

 はっきり言って大輔にはノーベルの苦悩なんて味わうつもりも覚悟もないのだ。


 と言う訳でこの件に関してはもう関わらないことを決意する。

 あとで他の面々にも伝えておかないといけない。

 マジで気が重い。


 そんなことを考えながら本を掴む。

 ここは気分転換に本を読むしかない。

 そうだ。本を読もう! 

 そんなことを考えて現実逃避にまっしぐらする大輔だった。


「う~ん。どれどれ?」


 大輔はタイトルを一つ一つ確認していく。

 クレメンスに頼んでいたのは次の通りだ。


 まず、魔法とスキルに関する本。

 これは趣味と実益を兼ねた選択だ。

 この世界は魔物が存在する危険な世界だ。

 しかも、魔王なんてものが戦争を仕掛けてきているらしい。

 保険を掛けすぎるということは無い筈だ。


 そこで一番に思いつくのが魔法とスキル。

 残念ながら筋肉バカたちと違って大輔には生き残る術はないのだ。

 なら、生存確率を上げる方法は何かと言うと魔法かスキルだろう。

 幸い魔法は勉強すれば覚えられるみたいだ。

 残念ながらスキルを覚える方法は確立されていないようだが抜け道があるかもしれない。

 それを確認する意味もあって魔法とスキル関連の本を用意してもらった。


 次に頼んだのはこの世界の常識と法律についての本だ。

 大輔達はいま王家に保護して貰っている。

 それは善意や後ろめたさからであり、一方的に与えられている立場である。

 いま放り出されたら残念ながら大輔達に生き残る術はないだろう。


 多分、彼らは大輔達を放り出したりはしない。

 だが、それが永遠に続くとは限らないのだ。

 これもある意味保険と言っていいだろう。


 そして、三つ目。魔王についてだ。

 大輔には魔王と戦う意思などない。

 帰れる時が来たらすぐに帰るつもりだ。

 だが、大輔達は魔王と言う脅威に対抗するために召喚された。

 だから、その対策くらい考えておいてもいいだろう。


 まあ、帰れなくなった時の保険でもある。

 それに伸治を説得できずに残らないといけない危険性もある。

 置いて帰るという選択肢もあるがそれが出来るかはその時にならないとわからない。

 本当に忌々しい。


 最後、これが一番重要なものだが、大輔達がいた日本について書かれた本がないかと言うものだった。

 これは言ってみただけで別に期待していたわけではない。

 ただ、今回は賭けに勝ったようだ。

 大輔は一つの本を手に取った。


 『この世界に来た別の勇者たちに贈る』


 タイトルから言って以前召喚された勇者が書いた物だろう。

 その証拠にその本は日本語で書かれていた。


「まさかこんなものが有るとはね」


 大輔は思わず呟いていた。

 何か嫌な予感がしながらも大輔はその本のページをめくる。


 内容は日記に近い物だった。


 彼は勇者としてこの世界に呼び出されたらしい。

 名前は桐嶋剛士。

 どこにでもいるような普通の高校生であったらしい。


 そんな彼はファンタジー小説が好きだったこともあり、魔王を倒して欲しいと言う願いを聞き入れて戦いに赴いたそうだ。

 彼は王国にいる英雄たちと組んで魔物と戦いレベルを上げて魔王に挑んだ。

 そして、晴れて魔王を倒してこの世界を救ったそうだ。

 この手記は平和になった世界を見届けて、明日いよいよ日本に帰るというところで終わっている。

 普通にファンタジー小説を読んでいるような内容だった。


 なんだか釈然としない。

 日本語で書かれている時点でこの本を書いたのが日本人であることが分かる。

 だが、どこかに違和感が……。

 妙な引っ掛かりを感じる。

 だが、それが何かわからない。

 首元まで出かかっているのだが出てこない気持ち悪さがある。


 大輔はもう一度読み返していた。

 そして、冒頭に注目する。


 彼はこの本を読むことになる人に内容を信じてもらうために日本のことについてもいくつか書いてあった。

 歴史上の人物。

 こちらにはない道具の数々。

 当時の総理の名前や起こったことなどについて、などなど。

 知らないこともあったが、ほとんどが大輔でも知っているような内容だった。


 内容を見ると桐嶋剛志と言う人は大輔達の10~15歳上の人物なのだろう。


「桐嶋剛志?」


 その名前には聞き覚えがあった。

 一体誰だったか…………


「そうだ。図書委員会の顧問。あのオレに仕事を押し付けた教師。あいつの名前が……」


 桐嶋剛志。

 そうだ。あいつの名前が桐嶋剛志だった。

 その事実が何を物語っているのか分からない。

 ただ、大輔が感じていた寒気はい一層増していた。




 その後、何度も本を読み返して考えてみたが、結局、結論は出なかった。


 偶然、名前が一致した別人なのか?

 この本を書いたのは桐嶋本人だが、大輔達の召喚とは関わっていないのか?

 それとも桐嶋がこの件に関わっているのか?


 情報が少なすぎて全く判断が付かない。

 桐嶋に確認を取れればいいのだが、そんな手段はない。

 あと、『この世界に来た別の勇者たちに贈る』なんて思わせぶりなタイトルをつけていながら大輔達に向けられているメッセージは残っていなかった。


 いや唯一、桐嶋の意思が読み取れる文がある。

 最後の一文。


『この世界に呼び出された諸君。君たちにはいくつもの選択肢がある。だから、誰に気を取られることなく自分の意思を貫け。そして、この世界を楽しんでくれ』


 これくらいだ。

 今まで淡々と体験談を語っておいて最後にこの文。

 何かこの文だけが他の文と違い過ぎる。

 そこに意味があるように感じて仕方がない。


「…………」


 だから、ずっと考えていたのだが、いくら考えても本人でもないのに分かるはずがなかった。

 大輔は本を閉じて大きな溜め息を吐く。


 外を見るといつの間にか真っ暗になっていた。

 そう言えばお腹が空いた。


 タイミングよく、メイドが夕食の準備が出来たことを報せに来た。

 大輔は本のことは一旦忘れて食堂へと向かった。



 夕食の席には伸治たち以外に王女とクレメンスが同席していた。

 だからかはわからないが桐嶋の本について大輔は誰にも話さなかった。

 食事は和やかな雰囲気で進み。

 しばらくして解散と言うことになった。

 そして、大輔が席を立とうとした時に伸治が


「大輔、明後日から外に魔物退治に出ることになったんだけどどうする?」


 慌てて大輔は振り返る。


「魔物退治に行く? まだ、早いんじゃないのか?」


「ビリー隊長やクレメンスさん、あと、兵士の人も何人かついて来てくれるから心配はないよ。場所は王都の近くの森らしい。駆け出しの冒険者が修行に使うような場所で、野生動物や弱い魔物しかいないから危険はないそうだ。日帰りで行って帰れるから準備もいらない」


 王女もクレメンスさんも頷いている。

 他の面々を見渡すとどうやら全員参加らしい。

 大輔は一瞬だけ考えて


「わかった。オレも参加する」


 そう言って自室に戻った。

 とりあえず、森に行くまでに魔法とスキルの本くらいは読んでおかなければならない。

 その時、何故か桐嶋のことが頭から抜けていることに大輔は気付きもしなかった。


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