第一話 プロローグ
新作です。
本日は順次五話更新する予定です。
楽しんでいただければ幸いです。
文章の誤用を修正しました。 16/12/26
「はあ、こんな時間になってしまった」
大輔は足早に廊下を歩きながらそんなことを呟いていた。
日は既に落ちてあたりはかなり暗くなっている。
下校時刻が迫っており教室どころか廊下の灯りさえ消えていた。
足元を照らすのは僅かに灯る常夜灯だけだ。
そんな不気味な校舎内を大輔は一人歩いていた。
自己紹介が遅れたが名前は朝倉大輔。
どこにでもいる読書好きの高校一年生だ。
一人を好み、孤高に生きる。
ただ、本さえあれば我が人生悔いなし。
などと戯けたことを宣っているが実際にはタダのコミュ障のオタクである。
いいじゃん。
厨二病は卒業してもこういうことは言いたい年頃なの!
と言いうわけでこう言うどこかダメな少年だ。
そんな大輔が、なぜ、こんな時間まで学校にいたかと言うと、話は簡単で図書委員会のお仕事をしていたのだ。
こういえば聞こえはいいのだが、はっきり言えば顧問の教師に仕事を押し付けられたと言うのが真実である。
「ちくしょう、桐嶋の奴、自分の仕事を押し付けやがって」
間違っても面と向かって言えないことを大輔は呟いていた。
まあ、閉架書庫の在庫確認と言うのは大輔にとってはご褒美と言えることかもしれないが……。
この学校は私立の中高大一貫校で各学校が隣接している。
そのためか立派な図書館があり、そこを学生は自由に使える。
そして、蔵書は大学の図書館も兼ねているために様々なものが取り揃えられているのだ。
基礎的な学術書から、古い文献、最新の研究論文などアカデミックなものがあるかと思えば、ライトノベルや漫画、ファッション誌なども置いてある。
種類も多岐にわたり文学、経済、工学、芸術など様々だ。
乱読家の大輔にしては堪らない環境である。
その図書館の閉架書庫にはどんな宝の山があるのか大輔は胸を高鳴らせたものだ。
うん、仕事をするまでは。
確かに素晴らしい宝の山だった。
館外持ち出し禁止だけでなく、所在情報すら責任者の許可が必要な物まで見ることが出来た。
しかし、目の前にあるのに読むどころか手に取ることさえ許されないというのはどういうことだろう。
歴史的に貴重なものであるので当然と言えば当然なことなのだが、これでは蛇の生殺しである。
そんな苦行に耐えて仕事を終えた大輔は疲れた身体に鞭打って家路につこうと自分の教室に向かっていた。
本当は直接帰りたかったのだが、教室にカバンを置いて来てしまったのだ。
面倒臭がって掃除終わりに直接、図書館に向かった報いである。
大輔は溜息を吐きつつ重い足取りで教室へと向かうのだった。
「あれ? 電気が点いてる?」
視線を先に向けると大輔の教室から灯りが漏れているのが分かった。
近くまで行くと中から楽しそうな声が聞こえてくる。
大輔は面倒臭いなあと思いながらも避けて通ることは出来ない。
素早くカバンを取って絡まれる前に退散しようと教室のドアに手を掛けた。
出来るだけ音を立てないようにそっとドアを開ける、大輔。
しかし、誰もいないはずの校舎のドアが開いたのだ。
気にならないわけがない。
案の定、部屋の中にいた人の視線を集めることとなる。
教室に残っていたのは五人の男女。
なんとも華やかな連中だ。
なんでこんな時間まで残ってんだよ、と大輔は盛大に溜息を吐きたくなるのを堪えながらも計画通りに何食わぬ顔で自分の席へと向かった。
だが
「大輔、まだ残ってたんだ。良かったら一緒に帰るか?」
黙って見過ごしてくれない奴がいた。
大輔の幼馴染みの伸治である。
真藤伸治。
近隣では進学校で有名な我が校一の秀才であり、一年生ながら剣道で全国大会に出場するくらいの猛者である。
その上、イケメンで社交的、責任感が強く、真面目で親切で優しいと言う、天に二物も三物も与えられた人間だ。
そして、幸か不幸か大輔の家のお隣さん。
生まれた日が二日違いで同じ病院と言うおまけまでつく。
小さい頃から比べられて生きてきたため、中学生くらいから苦手意識を持っていた。
そんな大輔の気持ちに気付いていないのか、伸治はことあるごとに話しかけてくる。
伸治のことが嫌いになりきれない大輔としては微妙な感情が胸の内にわだかまっていた。
そんな伸治の周りにいるのはやはりカースト上位者たちだ。
隣にいるのは黒髪ストレートのお嬢様。
名前は城崎涼子。
彼女は本物のお嬢様で某有名商社の創業者一族。
彼の父親自体はその会社とは関係ないが、うちの学校の大学で民俗学の教授をやっている。
その血の所為か彼女はとても優秀でいつもテストで伸治と争っている。
性格は温和でおっとりしているように見えるが実は負けず嫌いで頑固。
どうして大輔がそんなことを知っているかと言うと幼稚園からの付き合いだからだ。
だから、幼い頃は傍若無人の暴れん坊だったことを知っている。
何度、大輔が泣かされたか数えきれないほどだ。
大輔が余計なことを考えていると涼子の目の光が変わった。
その変化は長い付き合いの大輔や伸治しか気付いていないだろう。
表情は笑顔のままなのが余計に怖い。
本当に勘のいいやつだ。
大輔は笑って誤魔化しておく。
逆の隣に座っているのは活発そうな女の子。
名前は日高みな実。
ショートカットでスレンダー系のモデル系美女。
普段は寡黙を装って口数が少ないのだが……
実はこの娘、残念美少女なのだ。
だから、イメージがあるので学校や知らない人がいる前では極力黙っている。
しかし、本当は明るく、おしゃべり好きの女の子。
ただ、正真正銘のバカなのだ。
天然を通り越しているバカなのでたまに突拍子のないことを言って笑われる。
当人はいたって真面目なのでいつもキョトンとしているのだ。
大輔なんかはそこを魅力的に感じるし、そういう人は意外に多いのだが、本人はいたく気にしている。
以前、熱狂的なファンからかなりひどい罵声を浴びせられたらしい。
なかなか、ナイーブな女の子なのだ。
追伸、自分では寡黙を装っているつもりなのだが、基本バカなので隠しきれていない。
みんな知ってて生暖かい目で見ているのが現状である。
あと、彼女は伸治と同じ剣道部だ。
彼女の腕も相当なもので伸治と互角に競えるのは我が校では彼女だけだ。
今年のインターハイ剣道女子の部では一年生ながら準優勝をとった。
運動神経抜群の少女である。
三人目の女の子は鬼頭絢奈。
ロングで軽いウエーブのかかった茶髪。
カワイイ系の女の子でよくスカウトされているらしい。
確かにグラビアアイドルでも通用するようなスタイルだ。
短めのスカートから覗く足は目に毒だし。
あと、胸とか胸とか胸とか。
ただ、軽そうな見た目に反してこの娘は凄く頭がいい。
好き嫌いにむらがあるのか、文系科目は弱いが理系に関しては伸治すら敵わない。
優秀すぎて特別に大学で講義を受けさせられているくらいの才女である。
本人は面倒がっているようだが、期待をされると無碍に断れないのだろう。
素直に講義を受けているようだ。
そして、最後は男だから別にいいか。
名前は西郷隆彰。
タダのマッチョだ。
そんな五人の視線を受けて大輔がどう断ろうかと思っていた時だった。
世界が真っ白に染まったのは。
そして、大輔は意識を失ったのだった。