夜咄稚拙
私は私が大好きだ。他の人間なんて、正直どうでも良い。誰が死のうが、生きようが、不幸になろうが、幸せになろうが、私には関係がなかった。
ただ、私の努力が報われ、希望が叶い、世の中一般に対していくらか優越的であれば良い。大スターになりたいと思わなくもないが、何事も安定していることが一番重要であると私は思う。数多の平凡な人間に終止するつもりはなかった。
例えば道端の街灯とか、青空に浮かぶ雲とか、黒板の白いくすみとか、そういう社会に必要とされながらも、統一された美を汚していく存在が好きだ。
彼らは悠々として居座る無礼者であるが、時として事象のトリガーともなりうる。彼らはその一瞬だけ表舞台での存在を許され、その意義を人々に知らしめる。彼らはその価値を見直され、ひととき拍手喝采を受けるのだ。私もそうでありたい。そうありたいと思っているのに、まっとうな人間たる私には叶うはずもない。
今、私の目の前には三箱分のトランプが雑然と積まれている。私はあえて、気取ったように「カード」と呼びたい。青色と、そして赤色のランダムな背面は私に否応なく選択を求めるように思えてならない。エース、デュース、トレイ、ケイト………。4種のスートと混ざり合い、互いに反発し、時に融合し、彼らは知恵をつけるのだ。