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あの頃の明日はどうであっただろう  作者: 宮沢弘
第二章: あの戦争
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2−2: 従軍記者の手記より

 この大隊を選んだのに理由はなかった。変異・機械化中隊がありさえすれば、どこでもかまわなかった。

 昼過ぎに駐屯地に入ると、本部中隊の下副官が案内を申し出てくれた。私の横に並び、歩きながら話した。

「小銃中隊が3つ。重火器中隊が1つ。そして変異・機械化中隊が1つ」

 下副官は歩きながら言った。

「あぁ、変異・機械化中隊というのは……」

「知っています」

 私が言葉に割り込んだからだろうか、下副官は足を止めた。私もつられて足を止めた。下副官は二歩ほど前に出ると、私の正面に立ち、それから私の目を覗き込んだ。

「あなたの目的は連中ですかな?」

「いや、大隊の構成を見た時に気になったんで。何だろうと思っただけですが」

 下副官は一歩下がり、私の頭のてっぺんから爪先まで幾度も下へ上へと目をやった。

「一つ忠告させていただきますが。よろしいか?」

「えぇ。ぜひ」

「連中にはかかわらんことです」

「ほう、理由があるならぜひ教えていただきたいが」

 下副官はまた私の頭から爪先まで目をやった。

「よろしいか? 単純な話なのです。連中は人間ではない。そう、人間ではないのです。なら何なのか? 簡単な話ですな。人間でないのだとしたら、動物なのです」

 下副官はそこで半歩踏み出し、私の目の前に顔を突き出した。

「もしこの戦争において連中がなにがしかの成果を出したとしましょう。だが、そう、軍馬に名誉が与えられることはありますか? 軍用犬には? あるいは大砲には?」

 私は、一歩後に下がった。だが、それに合わせて下副官はもう半歩前に出た。

「戦争とは人間による名誉ある行為です。そこにおいて、動物が何らかの名誉に浴することなど、あってはならんのです。稀に例外はあったとしても、ですな」

「あぁ。えぇ、そうですね」

 私がそう答えると、下副官は顔を崩し、一歩下がった。

「そのとおり。わかっていただけたようで喜ばしく思います」


 駐屯地を一回りし、最後に小銃中隊の一つに案内された。

「あなたが取材すべきは、この勇敢なる中隊でしょうな」

 そこで私を中隊の副官に紹介すると、下副官は歩み去って行った。


 私は変異人間を醜悪だと思っていた。その存在そのものは、自然ではなく、そしてそれ故に醜悪であると思っていた。そして、今でもそう思っている。

 変異・機械化中隊に随行しようと考えたのも、変異人間を英雄化しようと思ったからではない。むしろ、その醜悪さをこそ伝えようと考えたからだった。

 科学の進歩は、仮にそれ自体は素晴らしいものであったとしても、それが生み出すモノが素晴らしいものだとは限らない。そして、変異人間はその最たるものだ。少なくとも変異人間だけは。

 そう思っていた。そして、間違いなく、今もそう思っている。

 だが、本当にそうだろうか。

「おらぁ! 力ぁ出せよ! そのためのお前らだろうが!」

 その声に、私は振り向いた。

 大口径の迫撃砲を、一人の男が引いていた。石にでも車輪が止められたのだろうか。男が引いている、おそらく鎖はピンと張っているものの、男が踏ん張っても迫撃砲は揺れるだけで、進む様子はない。

 引いている男は、恐しいほどの体躯をしていた。

「変異人間さまってのなぁ、その程度かぁ!? 無駄飯食ってんじゃねえ!」

 大声を出している男はそう言うと、迫撃砲を引いている男を鞭打った。

 いつもの私であれば、顔をそむけ、あるいは目をつむり、それとも喝采しただろう。

 だが、科学や、自然かどうかなど問題ではないことに気付いた。気付かされた。

 それは、あるいは常識というものや、世間一般の認識とは異なるのかもしれない。だが、だからこそ、やはり変異・機械化中隊に随行しなければならない。

 科学がもたらした機械は何なのか、科学がもたらした変異人間は何者なのか、科学とは何なのか。今一度、考えなければならない。私だけだとしても考えなければならない。

 その結果として、何かを誰かに伝えられたのだとしたら幸運であろう。だが、そこまでは望むまい。ただ記録し、考えるのみだ。それが何になるのかはわからない。どのような結論になるのかはわからない。私だけの答えであっても、世間が出す答えであっても。

 だが、誰かが記録しなければならない。私たちが、人間がどういうものであるのかを知るためにも。


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