2−1: 従軍記者の手記より
出発前に話を聞こうと思い、中隊を訪れた。この中隊を主な対象にしようと考えたのは、その特殊性ゆえだった。
日を浴びながら、中隊の隊員が走りまわり、機械が動きまわっていた。
「中隊と言ってもね」
大尉はそう話し始めた。
「この変異・機械化中隊は、やはり特殊なんだ」
部隊の装備と人員を見渡しながら大尉は続けた。
「見ただろうが、一部は本部へも出向く。あるいは他の中隊へもね」
大尉はこちらへ顔を戻した。
「もし、この中隊が中隊として行動するような状況になったとしたら、その時は…… わかるね?」
特殊な戦力を集中させなければならないとしたら、それはそういう状況なのだろう。
「あるいは、大尉、それ以外の状況で、やはり中隊が中隊として行動するとしたら」
考えられないことではない。ありえないとは思えたとしても、考えられないことではない。
「ふむ」
そう言い、大尉は空を見上げ、あご髭を撫でた。
「見たのかね?」
大尉は短かくそう言った。
「えぇ」
「君は変異人間たちをどう思うかね?」
「どうと……」
私はそこで言葉を切った。
簡単な調査はしてある。そこで思ったのは、醜悪であるということだ。機械について言えば、美しく思えるものもあった。だが、変異人間については。
だが、それは調査の段階での話だった。実際に戦争に赴く直前の今、見たことを考えると、果たしてそう言ってしまっていいのか、判断が揺らぐ。
「君がどう答えたらいいのか迷っているのは、君の表情でわかる」
そう言い、大尉はまたあご髭を撫でた。
「おそらく、いろいろと見たのだろう。いや、見たはずだね?」
「えぇ」
やっとのことで私はそう答えた。
「そう。見たからこそ、今、君は迷っている」
大尉はまた隊員に顔を向けた。
「だがね、私たちにはここしか居場所がない」
大尉は空を見上げた。
「ここしかね」
それは、受け入れているということだろうか。すべてを無条件に受け入れているということだろうか。
「もし…… もしですよ」
私の声に、大尉はまたこちらに顔を向けた。
「もし、戦場で、あちら側の変異人間と会ったら」
「だが敵だよ?」
「えぇ。ですが、会って、話をする機会があったら」
私は食い下がった。
「だとしても敵だよ?」
「そうですが……」
大尉は私に答えているのではなく、自分に言っているように思えた。
「ですが、もし変異人間同士として……」
大尉は右手の人差し指を立てて左右に振った。
「それであっても敵だ。敵として接っしなければならない」
そこで大尉はふうと息を吐き、そして吸った。
「普通の人間同士も、そうじゃないかね? 人間同士だからと言って、何かがどうにかなるかね? 私たちも同じようにそうするだけだ」
「ですが、あなた方は人間では、いや失礼、普通の人間ではない。その普通の人間の判断基準があなた方にも当て嵌まるのか。その普通の人間の、あなた方への接っし方に何も思わないのか。そう思わざるを得ない」
大尉から何かの言質を取ろうと思ったわけではなかった。ただ、一旦食い下がったために、聞かざるをえなかった。
「仮に。仮にそうだとしてだが。では、どこに行けるというのだね?」
その言葉を聞いて、やっとわかった。少なくとも大尉は諦観しているのだ。いろいろと思い、考えるだろう。だが、行き着くのは、おそらく常にその諦観なのだ。
だが、隊員はどう思っているのだろう。
「もし隊員が……」
どうしても聞かなければならないと思い、私がそう言いかけると、大尉はまた人差し指を左右に振った。
「それはない。あってはならない」
大尉は、また空に目をやった。
「あったとしたら。どこかに行ける場所があるとしたら」
大尉は言葉を一旦切った。しばらく空を見ていた。この話はこれで打ち切りなのだろうかと思えた。
だが、私は大尉の目を見ずにはいられなかった。横顔ではあったが、大尉の目から、目を離せなかった。
「そうであったなら」
大尉はぽつりとそれだけを言った。それは応えではなかったのだろう。ただ、いつもの諦観に辿り着く前に通り過ぎる、いつもの何かだったのだろう。