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あの頃の明日はどうであっただろう  作者: 宮沢弘
第一章: あの頃
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従軍記者の手記より

 あの戦争では、新しい兵器を見た。軍は隠そうともしていたが、それでも話す人間はいる。それが自慢だとしても、あるいは驚嘆の共有だとしても、あるいは嫌悪からだとしても。

 戦車、飛行機、飛行船。いずれも驚異であった。飛行機と飛行船は、美しくさえあった。だが、戦車はのろのろと地を這う芋虫のようであった。あるいは戦車もいずれは美しくなるのだろうか。

 だが、嫌悪の対象は、それらではなかった。

 強化外骨格、あるいは武装外骨格があった。それらの機構の変遷は、奇妙であり、醜くもあった。

 最初期の試験機はゼンマイを動力としていた。人体の関節に触れる部分にはいくつものスイッチがあり、それによりゼンマイからの動力を外骨格の関節の機構に供給し、あるいは遮断した。

 ゼンマイに続いて、蒸気機関、あるいは内燃機関を動力として使った試験機があった。ゼンマイは稼働時間も出せる力も話にならなかった。内燃機関は、外燃機関よりもスマートではあったが、あまり効率の良いものでもなかった。これについてはいずれ改善されるだろう。だが、単純な問題があった。燃料が爆発するのだ。

 そして、外燃機関にせよ内燃機関にせよ、共通の問題があった。熱である。個人が装着する機械としては、その小ささから充分な断熱ができなかった。機構そのものは機能したとしても、着ていられないのであれば意味がない。

 いずれにしても、ゼンマイ、蒸気機関、内燃機関は大きく、そして人型をしているだけに醜悪であり、滑稽であった。

 さらに言うなら、それらによって駆動可能な外骨格は、外骨格とは名ばかりの、いわば薄いブリキ缶で人を覆っただけのものであった。動作は鈍く、装甲は薄く、出せる力も弱く、敵から見ればただの的でしかなかった。

 それらに続く試験機として鉛蓄電池を用いたものがあった。この試験機の評価は難しい。醜悪でありながらも、どこかしら美しさを感じさせる面もあった。それはただ鉛蓄電池に動力源が移行したのみではなく、外骨格の素材と関節の機構の変化もあったからだろう。また、外骨格と言うよりも、筋力補助装置と呼べるものもあった。これは、装甲は捨て、歩兵の筋力を補助することのみを目的としたものであった。

 そのような試験機を経て、あの戦争に現われたのは、フライホイールによる蓄電器を動力源とし用いたものだった。フライホイールはただの金属ではなかった。ただの金属であれば、蓄電に必要な回転数に耐えられなかった。そこで、蚕と蜘蛛の糸によってフライホイールを補強したものが現われた。もちろん、ただのそれらの糸ではない。蚕にせよ蜘蛛にせよ、いずれもより強靭でしなやかな糸を吐くように遺伝子を編集したものだった。その蓄電器に電気を蓄える際は静かで、だがフライホイールの回転数が上がるフィーーーーという音が聞こえるようであった。もちろん、実際にはそんな音は聞こえない。だが、聞こえるように感じたのだ。

 これらはすべて、醜悪であり滑稽であるとともに、美しくもあった。少なくとも、次に紹介するモノに比べれば。

 何より嫌悪を感じたのは、変異動物たちであり、変異人間であった。遺伝子編集が行なわれた様々な動物たちであり、そして人間であった。

 見た目は、そう見た目は原種と大きく違うことはなかった。だが、目的に合わせ、骨格、筋力、知覚に対して遺伝子編集がなされていた。

 それだけならば、そうそれだけならば果たして醜悪と感じただろうか。

 それらの遺伝子編集に対応するように、それらの遺伝子編集の結果としてもたらされるものを処理できるように、脳に対応する部分にも遺伝子編集が行なわれていた。脳機能の制限が行なわれたのではない。むしろ脳機能も強化されていた。

 もし、脳機能が制限されていたのだとしたら、それが人間の形をしていたとしても、魂のない動物と考えただろう。そう、動物に魂はない。

 だが、そのような変異人間は理知的であった。理知的であったがために醜悪であった。あるいは、畏れから、醜悪であると感じたのか。

 そして、それらすべてをもたらした解析機関。リレーや真空管と歯車の集合体。これは何を計算しているのか、どのように計算しているのかさえ不可解であった。そして解析機関を操作するために遺伝子編集がなされた変異人間と解析機関が作る系は、ただ恐しかった。人間を越えた何者かであるように思えた。

 そのように言っていれば、おそらくは共感も得られるだろう。だが、ここで言葉を改めよう。変異人間は決して醜悪ではなかった。嫌悪も感じなかった。確かに醜悪さや嫌悪を感じた。だが、それは彼らからではなかった。いや、彼らからでもあったが、それは彼ら自身からのものではなかった。彼らは鏡であった。

 これらはすべて、避けられない未来なのだろう。美しくもあり、醜悪でもあり滑稽でもある未来なのだろう。その美しさが、その醜悪さが、そしてその滑稽さが、私の何かを惹きつける。もし、その未来を見ることができたならと思わせる。


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