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あの頃の明日はどうであっただろう  作者: 宮沢弘
第一章: あの頃
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DNA編集技術研究者の講義ノートより

 リプリケータ・ウィルスの挙動は奇妙である。宿主のDNAの特定の遺伝子を、際限なくとも言えるほどに複製する。その複製の過程において、自身も複製する。宿主の遺伝子を際限なく複製すれば、その細胞の機能は損われ、自身の複製にも影響を及ぼす。少なくとも、その細胞が生きている間に可能であるはずの、自信の複製の機会を、あるいは時間を失なっている。

 仮説はある。宿主の遺伝子を、自身の変異に利用しているというものだ。

 だが、ウィルスが最小限と言えるほどに遺伝情報や、自己複製の機能を捨てていることを考えると、それは納得できる仮説ではない。最小限と言えるほどの遺伝情報と、自己複製の機能しか持たないのだ。DNAではなくRNAを用いているとはいえ、レトロウィルスの逆転写酵素には校正修復の機能もない。

 言うなら、ウィルスが取った戦略は変異の容易さだ。それがなぜ宿主のDNAを複製するのだろう。修復や変異の、いわば参考にするため? 宿主のDNAがそれに役立つのだろうか? それとも、変異のための参考資料としてだろうか? もし、そうだとしたら、DNAの解釈系が必要になるだろう。そんなものが存在するのだろうか。あるいは、遺伝情報を取り込むためだろうか? そういうウィルスの存在も否定できるわけではないが、これは単純に考え難い仮説だ。最小限とも言えるDNAに、機能分化を含んだDNAが持つ遺伝情報の何を取り込むというのだろう?

 だが、リプリケータ・ウィルスの発見は突破口であった。DNAの断片を大量に得られるのだ。それもただの断片ではなく、単位としての断片をである。断片となれば、分析も容易になる。断片の種類が膨大だとしても、容易にはなるのだ。そして、それはリプリケータ・ウィルスそのものについても言えた。宿主の生きた細胞に、対象となるリプリケータ・ウイルスと、リプリケータ・ウイルスを対象とするリプリケータ・ウィルスを入れ、そこで得られるDNA断片を分析するという困難があったとしても、それは可能なのだ。

 そうして、遺伝子編集技術が確立された。


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