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あの頃の明日はどうであっただろう  作者: 宮沢弘
第四章: あの時
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4−4: 消える日 ――従軍記者の手記より: 失踪の前に――

 二週間後、小さな街の手前で、そのあたりの山のなかで、変異人間はいくつかに分かれて隠れていた。

 皆に普通の暮しを教えるのは難しそうだ。

「どっちみち、すぐに身に着くものでもないんだろ?」

 大尉はそう言っていた。

「私たちにわかりやすいのは、規律がはっきりしている暮しだ」

 それならば、一先ずはそういう暮しをしてもらうのがいいのかもしれない。そういう暮しができるようにマニュアルのようなものを書いてみた。

 そうやって書いてみると、「人間にとっての、そういうものだというもの」を、あるいは慣れ親しんでいるものを、書き出すのがどれだけ大変なことかがわかった。

 変異人間であっても、また軍という社会であっても、かなりは共通する。つまりは、マニュアルには書かなくて済む。では、これを解析機関に処理させることを前提としたらどうだろう。いずれは可能になるのだろう。だが、それはいずれはだ。そのようなものを書くための知識も、人数も時間もかなりの量が必要になるだろう。そして、それを処理するには、解析機関では時間がかかりすぎると思う。


 * * * *


 何人かの友人に、何人かずつの身元確認を頼むことにもした。経歴をでっちあげ、それを同封した。後で、近くの街から郵送しておこうと思う。写しを各人にも持たせておこうかとも思う。だが、写しが誰かに見付かったらどうなるだろうとも思う。

 こんなやっつけ仕事でごまかせるのかと疑問にも思うが、戦時の混乱が彼らにとって有利に働いてくれることを願おう。

 あとは、私がどこかに居を構え、友人や、変異人間からの連絡を受取れるようにしておかなければならない。少なくとも間に一人でも挟んでおく方がいいだろうとも思う。そうしておけば、私が転居したときにも連絡は確保しやすくなるだろう。


 * * * *


 そうやって、二週間、ペンを走らせ続けた。

 書き上げたものを見て思った。今までで一番働いた二週間だったと。

 そして思った。これで、変異人間のDNAは拡散する。子をなすことができればだが。それが解析機関の計画だったのだろうか。それは、考えてもわからないことである。


 * * * *


 そして、その日、その時が来た。

 隊員に付き添ってもらい、小さな街に出てきた。大量の封筒を、郵便局のカウンターに載せた。郵便局員も、戸惑うほどだった。何回かに分けて送った方がよかったかもしれないと、その時思った。だが、まぁしかたがない。

 郵送の手続きが終り、郵便局の前に出ると、隊員が言った。

「よう、記者さん。あんたはこっち側かい? それともあっち側かい?」

 それは戦争の敵と味方とは違う言葉だった。

「もちろん、そっち側だ」


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