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あの頃の明日はどうであっただろう  作者: 宮沢弘
第四章: あの時
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4−2: 隔離 ――従軍記者の手記より: 失踪の前に――

 通信兵は机に向かっていた。ヘッドフォンを着け、ペンを持ち、ノートを前にしていた。だが、ペンが動く様子はなかった。

 先程、担当時間から離れた通信兵に、どのような様子なのかと訊ねた。答えは簡単だった。戦争は続いている。ただ、私たちを除いて。私たちはいないかのように続いていた。

 さて、今ここで大尉は頭を抱えている。

 大尉は、他の変異・機械化中隊の中隊長との会議を終えてきたところだった。

 命令がどこからも、何も来ない。

 そして、双眼鏡で見える範囲に、敵の変異・機械化中隊がいた。

 もちろん、指示はあおいだ。それでも命令は来なかった。どこかで、こちらからの信号が失なわれているかのごときであった。どこで失なわれているにせよ、解析機関の計算が関与しているのだろう。

 私たちは隔離されていた。通信を傍受する限り、両勢力の変異・機械化中隊の群が隔離されていた。

 私たちは存在していなかったかのようであった。

 もし、何の通信も受信できていないのだとしたら、まさに私たちは何者かによって隔離されていると考えただろう。それが何者であるにせよ、超越的な何者かによって。

 さて、やはり今もここで大尉は頭を抱えている。戦闘を行なうことを選ぶか、それとも、私たちが存在していなかったかのごとくなったのであれば、戦闘に意味はないのか。

「大尉、これを解析機関がもたらしたにせよ、そうでないにせよ、私たちは開放されたのではないだろうか」

「開放?」

「駐屯地で、大口径の迫撃砲を引き、そして鞭打たれていた隊員を見た」

「あぁ」

「そういうものから、開放されたのではないだろうか」

「ふむ」

 大尉は、あご髭を撫でた。

「そういう扱いを知って、解析機関はこのような計画を立てたと?」

「それは…… わからないが」

「ふむ」

 そう言って大尉は、またあご髭を撫でた。

「私たちは救援が必要な状態ではない。むしろ、私たちが南へと、戦場へと戻らなければならない状態だろう」

「戦場へと?」

「ここは戦場かね? 睨み合ってはいるが。ここは戦場かね?」

 大尉は通信兵のところへと向かった。横からノートを眺め、またページをめくっていた。そうしてこちらに戻って来た。

「私自身が言ってしまったことだが。私たちは戦争から切離されてしまった。どういう計画であろうと、どういう意図であろうと」

「そして、あちらの変異・機械化中隊の群もだ」

「さっきの会議だが、そういう話も出たんだ」

「あちらと連絡を取ると?」

「あぁ」

「それで、どういう話に?」

 大尉は首を振った。

「何を話せばいいと思う?」

 降伏するわけでも、降伏を呼び掛けるわけでもない。では、戦闘の開始か? ここで問題だ。燃料や弾薬の補充を依頼する通信は通じるのだろうか。そして、その依頼は既に試みている。応えはなにもなかった。それは戦闘がまだ始まっていないからだろうか。だとしても、なにがしかの返答はあるだろう。

「私たちの戦争は終ったというのはどうだろう?」

「私たち? あぁ。そうだな。もうとっくにそう言っていいだろう。君も含めての私たちだな。それで、戦争が終ったとして、どうする?」

「普通の」

「いや」大尉は私の言葉に割り込んだ。「私たちは君の言う普通を知らない」

 そうなのだろう。

「それに、どこで?」

 大尉と話した最初の頃と、それは何も変わっていない。

「だが、そうだな。どうやら私たちは居なかったことになりかけているようだ」

 大尉はテントの天井を眺めた。

「なら、居なくなってもかまわないのかもしれない。相手方にも、ただ私たちは消えるとだけ言えばいいのかもしれない。明日にでも他の連中に話してみよう」

 私は大尉を見ていた。大尉は私へと顔を戻した。

「普通の暮しを教えてくれるかい?」


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