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あの頃の明日はどうであっただろう  作者: 宮沢弘
第四章: あの時
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4−1: 北にて ――従軍記者の手記より: 失踪の前に――

 中隊はさらに北へと向かっていた。中隊本部も、遅れてはいるものの、同じく北へと向かっていた。

 大尉が言うには、他の変異・機械化中隊も同じであった。それに限らず、敵側の変異・機械化中隊のいずれもが同じであった。

 解析機関は何を計算したのだろう。人間の、そういうものであるというものを持たない解析機関は何を計算したのだろう。それは、与えられた計画からの計算なのだろうか。あるいは、与えられた計画を書き換えた計画からの計算なのだろうか。

 両勢力の変異・機械化中隊の群が北に向かっているのは、どういう計画があってのものなのだろう。どういう意図があってのものなのだろう。解析機関に意図があるとすればだが。

 解析機関そのものは、あるいは大規模な解析機関そのものは、戦場にはない。

 駐屯地でライブラリアンが配送していた、大量のカードも、戦場にはない。

 このままで行けば、変異・機械化中隊の群からは解析機関が失なわれる。

 解析機関に意図があるのだとすれば、変異・機械化中隊の群を戦場から引き離すことのように思える。だが、それは解析機関自身を捨てさせることにもなる。

 これは、変異・機械化中隊の群を、それとも変異人間を守ろうという意図なのだろうか。解析機関は変異・機械化中隊の群については行けない。自らを捨てても変異人間を守ろうという意図なのだろうか。運がよければ、もしかしたらついて行けるのかもしれないが。これは、解析機関ゆえの、人間にとってそういうものであるというものを持たないゆえの、無私なのだろうか。

 それとも、解析機関はどこにでもあるという前提からのものだろうか。

 あるいは、この見方は、変異・機械化中隊に随行したための偏りがあるのかもしれない。普通の人間から、変異人間を引き離すためのものだろうか。変異人間を守るためではなく、変異人間から守るためのものだろうか。

 そうだとすれば、解析機関は自らを捨てているわけではない。自らは残したまま、ただ変異人間を普通の人間と自らから引き離そうとしているのだろうか。

 そのどちらであれ、それはどの範囲の解析機関の計算結果なのだろう。一つの解析機関棟に納まる範囲だろうか。あるいは、すべての解析機関によるものだろうか。

 蒸気機関は今も煤煙を煙らせ、水蒸気を吐き出し、クランクと歯車を回している。それは機械を動かし、発電もしている。

 解析機関は今も歯車を回し、真空管を光らせ、リレーをカチカチと鳴らしている。

 リプリケータ・ウィルスがもたらした遺伝子編集技術は、今も変異生物を生み出している。

 それらは残る。この場にいる変異人間がどこかに隠れたとしても、それらは残る。

 ならば、解析機関が選んだのはどちらなのだろう。

 ただ、この場の変異人間を消し、あるいは隠したいのか。だとするなら、そこに仮に何らかの意図があったとしても、それは意味がないだろう。結局、生み出され続けるのだから。

 あるいは、変異人間を集め、変異人間による反乱のようなものを計画しているのだろうか。

 何のために? 最大の影響を考えれば、人間は、得た知識と技術を捨てるかもしれない。それは解析機関自らをも消し去ることになるのかもしれない。なぜかはわからないが、それはやはり解析機関ゆえの無私からのものなのかもしれない。

 それとも、今の世代の変異人間はただ危険なのかもしれない。それがどういう意味でのものであったとしても。今の世代の変異人間だけを排除できれば、それでかまわないのかもしれない。

 結局、解析機関の計算はわからない。人間にとってのそういうものであるというものも持たず、記述されたものもすべて書き換えてしまいかねない、解析機関とはそういうものであるのかもしれない。

 解析機関は、人間を越えたのだろうか。それとも、人間にとっては異質なのだろうか。時間と進化を共有していないために、人間にとってはあまりにも異質なのだろうか。人間は、人間の認識によってしか周りを知ることはできない。それがもたらす異質さなのだろうか。

 変異人間はどうだろうか。どれほど異質なのだろう。大尉とも隊員とも、一定の理解はできているように思う。だが、それは私がそう思っているだけなのだろうか。人間は、人間の認識によってしか周りを知ることはできない。その制限によって、一定の理解ができていると思っているだけなのだろうか。

 人間にとってのそういうものであるというものを、解析機関に与えなければ、解析機関は何を計算するのだろう。それはどういう社会をもたらすのだろう。

 変異人間は、どういう社会をもたらすのだろう。

 わからない。ただ、わからない。

 結末を、あるいはその先を見るしか、わかる方法はないのだろう。見ても、やはりわからないのだろうか。それとも、結末はあるのだろうか。


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