前書ー筆者の戯れへの補足ー
ヨズガト王国ーー物語の舞台となるこの国は百を超える遊牧民族たちによって建国された。およそ百二十年前、地上の砂漠化が進み、彼らの生命線たる羊や馬といった家畜を育てるのが難しくなった。家畜が死に絶えれば、いつかは自分たちも飢えて死ぬ。それを恐れた遊牧民たちは徒党を組み、豊かな土地に暮らす人々に戦争をしかけることにした。その当時、世界にはまだ『戦に騎馬を用いる』という考えはなく、そのため戦は自ずと歩兵と騎兵との対決となり、結果は火を見るより明らかであった。
土地を奪い取った遊牧民たちは、進行していく砂漠化を見て、もう遊牧民としての生き方はできないことを悟り、その土地に新たな王国を築いた。自分たちが生きるために、自分たちでこの地を守れるように。そうして、世界に存在する二つの大陸ーーパンゲアとウルティマーーの境の地に興ったのが、このヨズガト王国なのだ。
各々の国には特色がある。農作業や畜産に力を入れている国、海に恵まれ造船技術や航海に役立つ天文学が発達した国、鎖国を貫きなんとか自給自足でやっていく国ーー。もちろん、このヨズガト王国も例外ではなく、彼らは商業に特化した。大陸と大陸の狭間という地を活かし、行き交う行商人たちの橋渡しのような役割を担っていた。世界中の富と栄誉、知恵を集めたとされ『世界の半分』と称された。
この時代、ヨズガト王国は建国以来最大の栄華を誇っていた。
だが、光には影が付きまとう。
空と大地がぶつかるところ。
昔の昔の、そのまた昔。
今は土に還ってしまった、少女と少年の話ーー。




