表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

二章 この世に伝わる七つの神の話

 地球はかつて、何もない死の星でした。

 生物もいなければ、水も空気もありません。

 あるのはむき出しになった地表だけなのです。

 宇宙には多くの神様たちが住んでいました。

 ですがその誰一人として、地球に目を向けることはなかったのです。

 死の星に命の灯火がともることはないのですから――

 地球は一人ぼっちで回っていました。

 遠く見える星たちに思いを馳せながら。

 けして救われることなどないと自嘲して。

 長い長いあいだ、ずっと回り続けていました。


 ある日のことでした。地球に一人の神様が訪れたのです。

 神様は一度きょろきょろと辺りを見渡しました。

 そこにはやはり、何もありません。

 しばらくしてから不意に、神様は地球に触れると、こう言ったのです。

「あなたはまだ、死んでいないのですね」

 地球は嬉しくてたまりませんでした。

 そうなのです。地球はまだ、死んでなどいなかったのです。

 ただ、他の星たちとちょっとだけ事情が違っただけなのでした。

 でも他の神様は、それに気付いてはくれなかったのです。

 神様はにこっと笑うと、地球をそっと撫でました。

「でしたら……そうだ。あなたにいい物をあげましょう」

 そう言うと、神様はゆっくりと瞼を伏せます。

「気に入ってくれるといいのですが」

 神様は両手を天に伸ばしました。するとどういうことでしょう。その両手に導かれるように、一人また一人と神様が舞い降りてきたのです。

 まるで蝶々のように、その姿は美しく、軽やかでした。

 地球は見とれました。

 それもそのはずです。今までここに誰かが訪れたことさえ、なかったのですから。

 神様たちはくるんと天を舞うと、音も立てずに降り立ちました。

 彼らは一様に、長く白い長衣に身を包んでいます。そして男性とも女性ともつかない、美しい中性的な顔と声音を持っていました。

「私は運命の神。ここであなたと出会えたのも、きっと運命の悪戯でしょう」

 最初に訪れた神様は、優しい声でそう言います。

「さあ、受け取ってください。私たちはあなたの命となりましょう」

 七人の神様は、誰もがにこやかに笑っておりました。



 この地球には、七人の神様がいます。

 光の神様は、金色の瞳と髪を。

 地の神様は、小麦色の瞳と髪を。

 風の神様は、淡い紫色の瞳と髪を。

 水の神様は、水色の瞳と髪を。

 火の神様は、赤色の瞳と髪を。

 命の神様は、淡い緑色の髪と瞳を。

 そして運命の神様は、灰色の髪と瞳を持っています。

 彼らはとても仲良しです。

 そして始めて降り立ったその場所で、地球を見守りながら一緒に暮らしています。

 しかしいつしか神様たちは、地球を守りきれなくなってしまいました。

 地球は思いのほか、駆け足で成長していってしまったのです。

 神様たちは悩みました。どうすればいいのか、解らなかったのです。

 だからといって、時間はそう長くはありませんでした。

 すると命の神様が言ったのです。

「私たちの子供に任せましょう」

 神様たちには、子供がいました。それぞれの神様と同じ特徴を持つ、まだ小さな子です。

 でも小さいとはいえ、彼らもまた神の御子みこ

 普通の人間には持ちえない力を、確かに持っていたのです。

 命の神様は、続けます。

「子供たちを人間界に送りましょう。そして、私たちでは無理だったことを、彼らに補ってもらうのです」

「でも……それで大丈夫でしょうか」

 光の神様は、心配そうな声をあげました。

「この子たちは人間と、あまりにも違いすぎる」

 そうなのです。神様もその御子も、見た目からして人間とは違いました。

 人間たちが持ちえないような色の髪と瞳が、何よりの証拠です。

 しかし命の神様は、そっと瞼を閉じました。

「そのことなら、心配いりません」

 命の神様は柔らかな声色で言いました。

 たった一言「任せてください」と。


 御子たちがその土地に溶け込めるよう、髪の色を変えました。

 中性的な面立ちも、男女のそれに整えました。

 そして彼らは人間界へと旅立っていったのです。

 それからというもの、地球は再び平穏を取り戻しました。



 今でも神様は、地球のどこかで暮らしています。

 そして御子は遣いとして、地球上のいたるところで生活しているのです。

 この世界にいる人間たちに紛れて、ひっそりと。

 御子は今も、その髪は変わったままです。

 ただ違うのは、その瞳の色だけ。

 それが彼らの御子である証なのですから。


   …*…


 地球は人間と神の御遣みつかいで溢れている。

 確かめたわけでもない。突き止めたわけでもない。

 でもそれは変えようのない事実なのだ。

 そして御遣いたちは、今もなお人間と共に日常を歩んでいた。

 共に歩み、異変があればそれを正す。そんなふうに世界の均衡を保ちながらの生活を、幾千年と続けて……。

 それぞれはそれぞれの行くべき場所へと、移り行くのだった。

 例えば上野こうずけの国・群馬には、光の神と風の神。彼らの御遣いの割合が、圧倒的に多い。

 何故ならば夏場は雷、冬場は空っ風という気候的特徴があるからだ。

 人々は古よりそれら気候の被害に苦しんできた。しかしそれは、人の力ではどうのしようもなかった。

 だから人々は、県内の各地に雷や風にまつわる寺院を建ててきた。畏怖の心を形として残し、風神雷神と気候を崇め祀り、神の怒りを静めるために。

 気候は人には変えられないものだ。というのもそれは、人知の及ばぬ神の管轄内なのだから。

 だが不思議なことに、寺院で祈られたものは自然、神の元へと届いてゆく。彼らはそれを御遣いへと知らせ、そして現場へと足を運ばせるのだ。

 光の神はその力で雷と太陽を、風の神は風を操ることができる。

 だから彼らは移り行くのだ。それぞれの必要とされている場所へと赴くために。

 この世界を、地球を守るために。


 あの大輔だいすけ耿輔こうすけも、そして慧哉きょうやも。風の神の御遣い――風使いだった。

 淡い紫の瞳が何より物証。

 しかし彼らは、けっしてその存在を人間へと明かしてはならなかった。

 何故なら彼らは人に類似し者であっても、人ならざる者。

 人ならざる者が人間と交われないのは、自然界の道理。

 覆すことのできない宿命。

 彼らはどう足掻いても、その運命を変えることはできない。

 彼らは神の血を色濃く告ぐ、神の御子。

 それは人間とは相反する存在なのだ。

 どうのしようも、最早なかった。

 だから彼らは、人間には自分のことを隠し続ける。

 彼らの責務に差し支えないためにも。

 自然の摂理に則るためにも。

 それは破ってはならぬ、絶対の掟なのだから。

 だがもしもそれを破ってしまったとしたら、その時は――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ