宇宙軍6(惑星に戻る)
光輝に再度、冬眞は聞いてくる。
「上に報告するんですよね?」
何だか不安そうに冬眞は聞く。
光輝も再度言う。
「どうしたものかね? そう聞いてくるってことは、冬眞君はもう、答え出ているんじゃないか? 参考までに聞きたいな」
「何を悩む必要があるんですか? 彼の戦争を我々が終わりにしてあげましょうよ」
そう熱意を持って言う。
思った通りの答えが冬眞から返ってくる。それが嬉しくなり光輝は笑う。
「冬眞君は可愛いねぇ」
「バカにしてるんですか?」
「いや、それより君はその素直さを捨てないでくれ」
冬眞は不貞腐れたように聞く。
「じゃあ、艦長がどう考えているのか、私にも分かるように、お聞かせ願いませんか?」
「そんな怒るなよ」
ひとしきり光輝は笑うと、
「まず、急に戦争の体験者ですって現れても、すんなり受け入れろって、方が無理だ。ここまでは良いかい?」
「はい。でも、彼は番号を言えましたよね」
「言えたね。そこが引っ掛かったポイントなんだ?」
「何でですか?」
「普通、みな番号は死んでも死守するぐらい、戦時中は大切なものだ」
「だから、皆覚えているのでしょう?」
「重要だから、人に言えないんだ。なのに、先程聞いたとき、彼からはそう言った躊躇を感じられなかった」
「先程寄った星で、小早川の命が狙われたことを冬眞君は覚えているかい?」
「はい」
「小早川の命が狙われたのは偶然何かじゃない。犯人には狙う理由があったんだ。小早川を狙ったのは、ただの伏線だ」
「どんなですか?」
「我が星が欲しいんだろう? 何せ鉱物は豊富だし。他の星に暮らすものにとっては、欲しいだろうね。特に、土地が痩せた星で暮らす者にとっては、喉から手が出るほど欲しいだろうね」
「つまり、あの人は敵」
「たぶんね。彼は別段、母国から逃げ回ってた訳じゃないと思うぜ。たぶん、戦争事態、彼は経験してないと思うよ」
輝の言葉に冬馬は首を捻る。
「なぜ、艦長はそう思うのですか?」
「戦争から本当に逃げ回ってたなら、けして自分から助けを求めたりはしねぇ。だって、そうだろう。もし、助けを求めた艦が敵対してる国のものだったら、絶対殺される。殺されるだけなら、良いが、戦時中なら拷問にも合うだろう。戦争を経験している者は、皆そう考えるものだよ。降伏するぐらいならいっそ死を選ぶだろうね。拷問は死ぬより辛いからね。そして、恥ずかしいことだって、戦争を経験している者は思っていたよ」
輝の言葉に冬馬は納得するものの、どこかで否定したい思いもあるんだろう。だから、庇う。
「確かに。でも、長年逃げ回っていたら、寂しくなり、僕は良く分かりませんが、人恋しくなるんじゃないですか?」
「確かにな。でも、本当に戦争を経験している者は、それなら自ら命を断つはずだ。そうだろう?」
「それは経験からですか?」
「俺も戦争は経験してない。良く考えてごらん、冬馬君。君なら、降伏するかい?」
「分かりません」
「我々には分からないかもな。ま、その答えは、たぶん、すぐ分かるよ」
そう言って、何故か光輝は笑うのだった。
その答えは酷いこと光輝の言ったように、すぐに分かった。
彼を追って被験者輝達の母星から追手が出ていた。何でも彼は母星から重要データーを抜き取り、敵国に売ろうとしていたらしい。それが艦が故障し助けを乞う羽目にになったわけである。
「バカな奴だ」
光輝は吐き捨てるように言う。そして、碇に指示を出す。
「碇、小早川にこれを連絡してやれ」
「はい」
直ぐに連絡するが、小早川は出なかった。
「出ません」
「じゃ、残しておけ」
「分かりました」
そして、後に光輝の予想通りで、追手が来たため冬馬は光輝の予想に驚いた。でも、光輝はどうするのだろう。渡すのか? そこは、分からなかった。でも、追って来た者達に光輝は予想外のことを言った。
「見掛けたら、すぐ報告しますよ。でも、なんせここらは人の少ない地域、逃げて来ても隠れられません。この辺はあまり逃げ隠れするのは、向かない場所じゃないですかね?」
「そんなこと、我々もわかって巡回している。今は忙しいんだ我々もな。だから、失礼する」
そう言って一方的に通信を切られる。光輝はそれに笑う。
「短気なお人だ」
「何で、教えなかったんですか?」
「俺は彼が持ち出した、情報がみたい。それを見るには、渡すわけには、行かないだろう? 渡したら、最後、我々は何の情報も獲られず終わる。情報を前にしてるのに、それはバカがやることだ。みすみす情報を捨てる何て」
「何故?」
「軍も一枚岩じゃないからさ。彼が持っているデータに、たぶんそこに小早川を狙った理由が隠されていると思うよ」
光輝がそう言うと、冬馬は悩みながら言う。
「小早川さんを狙ったのは、我らの星を監視するためですよね。そうしたら、軍も助けてくれるんじゃないですか?」
「そうだね? そうだと良いね?」
「違うと艦長は考えているんですね?」
「どうかね?」
光輝は口の端だけ笑う。
「冬馬君はどう思う?」
「えっと、僕は単純に軍の配置されている場所が知りたかったんじゃないですかねぇ?」
「そんな単純なら良いんだけどね」
「なんか、艦長は難しく考え過ぎな気もしますが」
「そうか? そうかもな」
「でも、気になりますね?」
それまで、黙っていた碇が口を挟む。
「ああ、小早川が出なかったのも、お前が思っている通りだと考えると、我々もゆっくりはしてられないぞ。碇、艦を戻せ」
「はい」
そう言われた碇は艦を戻す。
「前速前進。2日で戻れ」
1週間掛けてきた道を2日でとは、無茶も良いものだ。
それは碇も思ったようで言う。
「どんなに飛ばしても、3日は掛かりますよ」
「じゃあ、俺は戦闘機で先に行く。お前らは後から来い」
「輝を1人で何か行かせられません。それは危険です」
アキラって誰のことだ? たぶん、艦長のことだよな。冬馬がそう思うと、光輝が可笑しそうに笑って言う。
「碇。ブ、ブーだ」
そう言われて、碇は口を押さえる。
何のことかは冬馬には分からなかった。
「でも、どんな危険があるかも分かりません。私は光輝が何も行かなくても、良いって思います」
「そうだな。家の艦にも優秀な戦闘機乗りはいるが、だが、あの惑星まで時間が掛かりすぎる」
「でも、何も艦長が行かなくても。ご両親に、何て詫びたら良いか?」
碇がそう言うと、光輝は覚めた眼差を向けてくる。
それを聞いて、光輝から鋭い声が飛ぶ。
「碇、嫌なら着いて来なくても良いんだぞ」
碇は口をつぐむ。
「そんなに、不安ならいっそのこと、俺を監禁したらどうだ? あっ、ダメか。逃げ出すわ」
光輝は自分で気付くと、物騒な案を出す。
「一層のこと、手足を切るか? さすれば、自由に動くことも叶わん。あっ、ダメだ、まだ目が見える。これだと余計、口を出しちまう。じゃあ、目を潰すか? 何をするか分からんからな」
笑いながら光輝が言うと、碇が止める。
「分かりました。私の負けです。何なりと仰って下さい」
「ありがとう」
光輝は嬉しそうに、笑う。
「取り敢えず、戦闘機に乗るぞ、碇」
そう言われ、敬礼する。
光輝は苦笑いすると、言う。
「じゃあ、五十鈴副艦長に艦のことは任せた」
「はい」
五十鈴は敬礼する。光輝も敬礼する。